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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花9

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幸せを呼ぶ花9

綺麗に片付いているな、という印象が先に飛び込んできた香月の部屋は、調度品もこだわりのありそうなものばかりだった。

二人で飲んで、二人で同じ部屋へ辿り着く。普段の自分ならとっくにベッドインの流れだな、と思いながら、シャワーを借りるだけで香月を誘い込むようなことはしなかった。

何か言いたげな目で香月がこちらを見てくるが、気付かないフリをしてベッドへ潜り込む。自分から部屋に来たくせに一切触れさせないのは意地が悪いかもしれない。けれど彼と寝たくはなかった。

香月の作ってくれる花束は気に入っているし、何よりあの土手から一番近い。一夜限りの相手として、香月は相応しくない。

自分の勝手な言い分なのはわかっている。好意を持っていても、付き合う気はない。もう深く誰かを愛して疲弊したくないのだ。

「おやすみ」

「・・・。」

隣りに潜り込んできた香月は、距離を測りかねているらしい。たいして広くもないベッドの上で、付かず離れずの距離を保とうとする。

「もっとこっち来たら?」

「あなたが・・・それを言うんですか?」

「落ちちゃうよ。」

「俺、あなたが好きなんです。」

彼からしてみたら、煽られるだけ煽られて据え膳なのだ。触れたら耐える自信なんかない、ということなんだろう。けれどその様子にかえって悪戯心が湧いてきて、揶揄いたくなる。自分の悪い癖だ。

「ほら、いつまでも肩出してると身体冷えるよ。」

香月の腰に手を回して身体を引き寄せる。驚いた顔が赤く火照るのはあっという間だった。

「勝田さんッ!」

自分の太腿に触れた硬いものが、香月の焦りを生々しく伝えた。胸を押しやられて、香月が身体を離してベッドから降り、しゃがみ込んでしまう。

「勝田さんはベッドで寝て下さい。」

押し殺したような声が痛々しくて、少々揶揄い過ぎたと、こっそり溜息をつく。

「君は?」

一人昂ぶっている恥ずかしさとか、仕掛けられる中途半端な煽りが、香月の中で今渦巻いているのだろう。

「俺は・・・ソファで寝ますから。」

怒らせただろうか。深い溜息が蹲った彼の方から聞こえてくる。

けれどそれで良いのだと、謝ってしまいそうになる自分をなんとか堪えた。

気持ちを受け入れる気がないのに優しくしても仕方がない。気持ちを弄び、蔑ろにし続ければ、香月もそう遠くない未来に夢から覚めるだろう。

今までしてきた事と何ら変わり映えないこと。なのにこんな胸が騒つくのは何故だろう。

抱かせる気なんかないくせに、人の温もりに飢えて酒の心地良さに浮かれて転がり込んでしまった。失敗したなと苦い思いを噛み締める。

部下との距離感は誤らないのに、恋愛沙汰になると途端に自分は距離感を見誤る。不器用なのか、感覚が人とズレているのか。自分では後者だと思っている。

理解できない、と何度言われたことか。まともに付き合う気のない所為で、それこそ若い頃は幾度となく寝た相手と揉めた。

一夜限りを望むわりに、行為に及ぶ時は愛を囁いて欲しくなる厄介な性分だからだ。どう考えても自分の趣向に問題がある。

一夜の関係を望むなら、愛を望んではいけない。そんなのは当たり前だ。しかしその当たり前が、自分にはできない。どこか感覚が欠落しているのかもしれない、と何度も自分を省みたものの、未だに自分で納得できる落としどころを見つけられずにいる。

月に一度の逢瀬に戻ろう。

もう香月とはこれっきりにするべきだと、蹲る彼の背中を見ながら決心した。














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