単なる気まぐれで香月を誘っただけのつもりが、どうやら自分は会えるのを楽しみにしているらしい。部下だけでなく他の部署の連中にまで機嫌が良いですね、などと言われれば、もはや認めざるを得ないだろう。
書類整理がひと段落して、判子押しにも飽きてきたので、勝田は一服代わりにかつての部下の元へと電話をかけていた。
「みんなに言わせるとね、良い事があったんだろうな、ってことみたいだよ。だからそっちの調子がすこぶる良いんじゃないかと思って、楽しみに電話したってわけ。」
『そうきますか・・・。でもお陰様で順調ですよ。』
「本格的に稼働したの? 例の件。」
『サニーの案件は無事に。』
「そう。おまえの雛は頼もしいね。」
年末彼らに会った時、彼の雛は大きな案件を一つ抱えていた。工場での試験的な運用を経て、本稼働となったらしい。今年度、しっかり数字として乗ってくるだろう。
「予定通り増員はないから。」
『わかってます。』
かつて直属の部下だったこの男は、年を重ねていくたびに自分の手から遠ざかっていく。彼は優秀だ。自分の助けを必要としない以上、気に入っていても側には置けない。それが組織というものだ。
基本的に公私混同はしないと決めているが、一つだけ、マレーシア支店の人事に口を挟んだ。
彼は雛を可愛がっている。そして雛も彼を心酔している。二人は恋人だ。雛を本社に戻す話は自分の手によって立ち消えとなった。
自分の手で捻り潰せる程度の話は、まだ代わりがきくということだ。無意味に離す事はしない。来たるべく時が来れば、その時が彼らの試練の時だからだ。
二人は知らない。けれど、それでいい。
「夏に一度顔出すよ。ドリアン食べに。」
『ドリアン・・・お好きなんですか?』
「美味しいじゃない。」
『俺はちょっと・・・』
電話越しでも嫌そうに顔を顰めているのがわかる。ドリアンは臭いが強烈だ。美味だと自分は思うが、人は選ぶ。果汁で皮膚がかぶれる者もいる。
「マレーシア行って、あれ食べないんじゃ、行った甲斐ないよ。食わず嫌いは良くないね。」
『挑戦はしましたよ・・・』
雛に食わされそうになって狼狽したであろう彼が容易に想像できて、盛大に笑い返した。
自分が心配することはなさそうだ。その事に一安心する。互いが必要とし合っている時、一緒にいられるにこしたことはない。少なくとも、雛にはまだこの男が必要だ。もしかしたらこの男も、自分が考える以上に雛を必要としているのかもしれない。
「じゃあね、小野村。」
壁の時計に目をやると、午後三時半。そろそろ自分のブレイクタイムは終了だ。
『はい、また。』
切れた電話の向こう側に、二人が上手くいくように念じてみる。二人とも可愛い部下だ。自分のように捻くれた大人になって、時間を無駄にして欲しくなどないから。
他の人の幸せを祈っているなんて、やっぱり自分は浮かれているかもしれない。
置いた受話器を見つめながら、勝田はそっと溜息をついた。
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に見えてれば良いのですが。。。
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朝霧とおる