大友を抱きながら脳裏に浮かぶのは勝田の事だ。下半身から駆け上がってくる快感と、妙な罪悪感が交互にやってくる。
組み敷いた身体が発する声も、自分の名ではない。いい歳をした大人二人が何をやっているんだろうかと頭をよぎるけれど、腰を揺すっている内に、その感情さえ曖昧になってくる。
「ぁ・・・ぅ・・・」
身体を重ねながら思い浮かべるのは別の顔。それは大友も同じなのだ。大友には好きな人がいる。くっ付いたり離れたりを繰り返す、これまた厄介な相手だ。
情事の時、大友が彼の名を口にする時は、彼を恋しがっている証。いずれまた、元の鞘に戻るんだろう。
こういう関係を普通、親友とは呼ばないのかもしれない。けれど自分にとって、初めて抱いた大切な親友なのだ。二人の間でこの関係は成り立っている。誰かに理解してもらう必要はない。だからそれでいい。
でもこれから先はどうだろう。やはりこのままでは駄目だと思う自分がいる。けれどそんな風に考え始めた頭も、下半身を襲った強烈な締め付けによって阻まれた。
「ぁ・・・イくッ・・・」
込み上げた射精感に逆らわず、誘われるままに腰を深く突き入れて達する。
気持ちが良い。そして後には何も残らない。
今までは確かにそうだったのに、荒い息が整っていくに従って訪れた虚脱感に、苦笑いするしかなかった。
それだけ、自分はあの人に惹かれている。組み敷いたら、彼はどんな顔をするだろうか。冷めたあの目が熱を帯びて潤むのを見てみたい。下世話な事しか思い浮かばない自分に、もはや笑うしかなかった。
「スッキリしたぁ・・・」
呆れるほど場違いで開放感に満ち溢れた声が下から聞こえてくる。声の主はもちろん大友だ。
「色気なし。」
「今さらでしょ。」
「確かに。」
二人で笑い合っていると、大友が頬を思い切りつねってきた。痛いと抗議して睨むと、鼻で笑われる。
「心ここにあらず、だろ。」
「おまえが言う?」
抱きながら勝田の事を考えていた自分も自分だけど、散々他の男の名前を喘いでいたやつに言われたくない。
「あの人のことしか浮かばない。」
「ひでぇ。まぁ、でも・・・俺も似たり寄ったりだけど。」
抱いて興奮するのも勝田を思えばこそだし、それは大友も似たようなものなんだろう。二人で妙に納得しあって、項垂れる。
「もう三十の大台はとっくに過ぎてるけどさ・・・区切り付き損ねてきたよね、俺たち。」
「香月といるとさ、高校生に戻っちゃうんだよなぁ。気兼ねしなくて良いから、楽で。」
「俺も・・・でも、それじゃあダメだよな。」
キスもしない。甘い言葉を囁くでもない。だって恋人ではなくて親友。でもそんな事を言っても誰も信用しないだろう。これでいいのだと言い聞かせてきたけれど、虚しいと気付いた時、それが辞め時だ。
「卒業しよっか。ね、香月。」
「うん。」
「本当の親友に戻ろう。」
「そうだな。」
とてもあっけない。何のしこりもなく終えられるからこそ、やっぱり大友は特別なのだ。彼が恋人なら楽だ。けれど楽な関係は何も生まない。
他人から見たら、馬鹿で滑稽な関係なのかもしれない。でも自分たちはこの関係に幾度も救われて、社会の波に何とか紛れ込んで生きてきたのだ。不均衡を修正するための関係。
恋をして、叶わなくて、落ち込んで、打ちのめされてきた。それでもまた、自分は恋をした。懲りずに人を好きになったのだ。
一度くらい逃げ道を絶って、全力でぶつかってみるべきだ。また恋破れてしまったら、その時考えればいい。
大友と二人、枕やクッションを投げ合って、騒ぎながら笑い合う。そしてようやく、この奇妙な『親友』を卒業した。
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ラクガキ第二弾
まさかの凡ミス。。。
常夏のマレーシアで長袖(泣)
ちなみに前日の二人はマイ・パートナーの二人を描こうとして、
多田さん、失敗。
思い描くイメージで描けないもどかしさ。。。
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朝霧とおる