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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花4

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幸せを呼ぶ花4

聡い子は好きだ。気が利いて、自分とも波長が合う。自分という人間のどこが香月という青年の琴線に触れたのかはわからないが、彼は知りたいと言った。

連れてきたのは単なる気まぐれだ。彼は自分のほんの一部しか知らない。両親と絶縁状態である自分の事も、会社では営業部長として策を練り歩いては煙たがられている事も知らない。何も知らないに等しい。だからかえって安心できた。

今までは花屋の店主とその客という関係。それに青年のちょっとした好奇心というスパイスが加わっただけの事だ。自分の事をひけらかして話すつもりは毛頭ないが、自分に興味を持ったという香月のことを、少し知りたいと思った。

「君、歳はいくつ?」

「三十二です。」

「働き盛りだね。」

「そうですね。でも俺は同い年の連中と違って、社会人としてのスタートが遅いんです。」

「新米?」

「はい」

「でも働き盛りには違いないね。」

土手に沿って続く道を二人で歩く。梅雨真っ只中で雨に降られなかったのは幸いだ。そういえば先月も曇り空だった。次に来る時は夏空だといい。盟友は夏の晴天が好きだった。

「この辺にしようかな。」

もうここにはあの一面に咲き誇っていたシロツメクサもクローバーもない。コンクリートの下に埋もれてしまった彼らと二度と会うことはないだろう。当時の面影を毎度探すけれど、虚しい気持ちだけが降り積もっていく。そして今となってはそれに埋もれて息をするのがやっと、という心境だ。

土手を下り始めた自分に、香月は黙ってついてくる。川辺に立ち、抱えていた桔梗の花束をジッと見つめた。

変わらぬ愛に、優しい愛情。

まるで失くした友と自分を鏡で映すような花言葉だなと思った。彼への想いをずっと手放せない自分と、最期まで穏やかな眼差しを持ち続けた彼。

香月がついさっき結わえてくれたリボンを、うっかり折り目など付けないように、丁寧に解いていく。彼のために花を手向ける全ての行程が、自分にとっては儀式のようなものだからだ。粗末には扱えない。自分の想いも彼の想いも意味あるものだったと信じていたいから。

「君の結んでくれるリボンってさ、いつも凝ってるよね。」

「・・・そう、ですか?」

趣向を凝らしていると思う。社会人としてのスタートが云々というのは、その手の勉強にでも時間を費やしていたのかな、と勝手な想像をする。店主が彼に変わってから、一度たりとも同じ包装ではなかった。

「今までの全部・・・残してあるんだよ。勿体なくてね。」

半分本音で半分嘘だった。綺麗だなと思っていたのは事実だが、残してある本当の理由は違う。
捨てようと思っても、捨てられないのだ。自分が花に託した想いまでなかった事になるような気がして。

香月が何か言いたげに口を開きかけて、結局そのまま口を閉じた。聞かれないことをいいことに、勝田も気付かないフリをする。

桔梗の花束からセロファンの包みを取り払って、桔梗の花の中に彼の面影を探す。そっと目を閉じたその先には、この土手で一緒に戯れていた頃の懐かしい面影がはっきりと蘇ってくる。

薄れてしまうことはない。最近覚えたばかりの事より、もう三十年近く経ってしまったあの頃の事が鮮明だなんて、自分はどうかしているのかもしれない。それだけ自分にとって、彼と過ごした日々は輝き、彩りのある世界だったのだ。

勝田は川辺で屈み、桔梗の花をそっと水面に滑らせた。川の流れに沿って、白い花はゆっくりと自分から遠ざかっていく。その姿が視界から消えてなくなるまで、ジッと見つめていた。

深呼吸して振り返った先で、香月と視線が交わった。ずっとこちらを見ていたのだろう。一瞬気まずそうな顔をした香月だったが、勝田が微笑むとホッとしたような視線を寄越した。

「君さ、いい子だね。」

「え・・・?」

「知りたいって言ったわりに、何も聞かないから。逆に口が滑りそうになる。」

「・・・。」

問いただしても良いものか思案している顔に、思わず笑う。底意地が悪いと部下の誰かに言われた気がするが、さぞかし自分は厄介な人間なのだろうな、と思う。でもそんな自分に興味を惹かれたのだと言うのだから、こちらも興味津々だ。

「ねぇ、今度さ、ご飯でもどう?」

「ご飯・・・ですか?」

「うん」

「行きたい、です。」

「来週の土曜日、君の店の前ね。あ、言っておくけど、店仕舞い終わった後でいいからね。二週連続で営業妨害するわけにいかないから。」

「わかりました。でも閉めるの夜の八時なんです。遅くなっちゃっいますけど大丈夫ですか?」

「うん。別に予定ないし。むしろこっちが聞きたいよね。仕事頑張った後に会うのが、こんなおっさんでいいの、って。」

「自分でおっさん呼ばわり・・・」

自分の所為でしんみりしていた空気を変えたくて、笑い飛ばす。つられて笑ってくれた香月に有難く思う自分がいる。

本当にいい子だ。彼が香月と同じだけ時を重ねていたら、こんな好青年になっていたのだろうか。

あり得ない想像に心が冷めていく。香月と笑いながら、勝田はせつなさに心を締め付けられる。
また一つ、彼への想いを刻む。懐かしさと叶わぬ願いが交錯する月命日だった。













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