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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花21

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幸せを呼ぶ花21

布団に包まれた勝田は、少し頬を染めて穏やかな寝息を立てていた。その色っぽさに惹き込まれる。好きだと改めて自覚するには十分な刺激だった。こっそり彼の唇を奪う。勝田が微動だにせず寝入っている事を少し残念に思った。

疲れていたんだろう。皐が朝食の支度を終えても勝田は起きてこなかった。子どもではないのだし、彼はここの鍵も持っている。食卓を整え、店に行くとの書き置きだけして、皐は家を出た。

今日は接客をしつつ、月曜日だけ行っているフラワーアレンジメント教室で使う花材の確認をしなければいけない。月曜の朝一で仕入れてくる花のリストアップと資材の仕分け、やる事は盛り沢山だ。

フラワーアレンジメント教室は花屋の二階で行う。生徒は各回十名前後。午前と午後の二部制だ。花屋の休業日を当てて開いているので、皐には実質休みはない。けれど他に何かしたい事があるわけでもない。花に触れていられるなら、むしろ本望だった。

花は嘘をつかない。美しく儚くも、咲く時はエネルギッシュな生き物だ。守ってやりたくて手を掛けて、そして彼らの強さに励まされる。

そしてふと気付く。勝田を好きになった理由を唐突に悟った。彼は花に似ている。守ってやりたいほど寂しげで儚いのに、それでも強烈に華やかな人。今まで出逢った人の中で、彼ほど花に似た人はいない。

好きになった訳を納得したら、急に気持ちが落ち着いた。そして極力自分の気持ちに貪欲でいようと思った。

自分がこの手を離したら、勝田が追いかけて来てくれることは決してないだろう。皐が追いかけ続けるから、勝田も寄り掛かる気になるのだ。

勝田は疲れている。恋にとても臆病になっている。だから皐から手を離してはいけない。自分が手を離した瞬間、この恋は終わってしまう。

大人になると厄介な事だらけだ。好きなだけなのに、シンプルに事は進まない。出逢いには別れがある。仲違いだったり、死別だったり別れの理由は様々だ。好きな人と一緒にいることは、喜びや楽しさだけではない。悲しみや苦しみを生むことを、皐も勝田も知っている。だから茨の道なのだ。

勝田と一緒にいたい。喜びも悲しみも分かち合いたい。一度や二度振られたくらいで諦めたくはない。ましてや勝田の本心からの拒絶ではないと確信している中で諦めるなんてことはしたくない。甘く、心地良い時間をたくさん重ねていけば、いつかは振り向いてくれるかもしれないのだ。

シャッターを開け、ショーケースの中に入った花の手入れを始める。昨日まで蕾だったコスモスの花が、開き始めている。夏の暑さはまだまだ続きそうだが、花たちは着実に季節の移ろいを奏で始めていた。

人の心も移ろうもの。勝田の凍った心もまた、いつか皐の温もりに絆されて溶けていくかもしれない。そう信じて、皐はコスモスの香りを胸いっぱいに吸い込んだ。









 








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