いつも花に囲まれているからだろうか。香水ではない甘い香りが鼻の前を霞のように漂う。久々にぐっすり寝られそうな予感がして、安堵の息を吐き出した。
四十過ぎにもなって、年下の青年に添い寝を強請るなんてどうかしてる。けれどこの関係が定められていたかのように、香月の横に収まっているのは落ち着いた。
「こんな風にしてるとさ、恋人みたい。」
「まだ俺は恋人にしてもらえないんですか?」
「ちょっと考えちゃうよね。香月くん、優しいから、絆されちゃいそう。」
香月の手が勝田の髪を撫でる。その温かさが心に沁みて泣きたくなった。けれど自分だけ大切に扱われるのは間違っている。想いを返せないなら、アンバランスな関係はきっと香月を傷付けることになる。彼を好意的に見ているからこそ、付き合いたいとは言えなかった。
「恋人になるのは嫌なんですか?」
「・・・。」
無言って狡いなと自分でも思う。でも嫌だとは言いたくないし、恋人になるとも言えない。人を好きになるのは難しい。自分で勝手に拗らせているだけかもしれないけれど。
何も答えず香月の首元を見つめる。目を合わせるのは気まずいくせに、彼を見ていたかったからだ。香月は何も言わず、また温かい手で頭を撫でてくれた。
「勝田さん、寝た方がいいですよ。凄く眠そうな顔してる。疲れてるんですよ。」
君に会ったらホッとしたよ、という言葉は呑み込む。ささくれ立っていた心も凪いだ。けれど疲れているのは事実だ。電話や先方への謝罪に追われた一日だった。
だけどもう少しだけ、彼の隣りに収まる心地良さを堪能したい。眠ってしまうのが勿体なくて、香月の肩に頭を擦り寄せた。
「猫みたい。」
小さく笑った香月が、不意に身を乗り出して勝田の額に口付ける。あまりにも自然な流れでするものだから、少し呆気に取られた。
「おやすみなさい。」
何事もなかったように、香月が再び隣りへ収まる。しかし柔らかくて優しい唇の感触は、いつまでも額に残った。
「香月くん、おやすみ。」
勝田がそう告げると、香月はリモコンで明かりを消した。
訪れた漆黒に身を沈めると、二人の静かな息遣いだけが聞こえる。目を閉じて香月の肩に擦り寄る。やっぱり良い匂いだ。温かくて甘くて、とても安心する。
好意を持ち合っている二人がこんなに接近していて何も起こらないということが不思議だった。それだけ香月が誠実だということなんだろう。
香月がタオルケットを掛け直してくれる。すっぽりと包まれて、久々に満ち足りた気分になる。香月の体温と彼の香りが自然と睡魔を呼んだ。そして勝田はいつの間にか意識を手放した。
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朝霧とおる