*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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曖昧な返事に終始した自分をよそに、自宅の鍵を寄越してきた香月。家に帰って、暫く彼のくれた鍵を眺めていた。
とても誠実だ。好きだと言いながら無理強いをしない。あまりに心地良過ぎる距離感に、もう半ば陥落していた。
けれど彼と同じだけの熱量を返せるかと冷静に考えた時、自分の思考は止まってしまう。誰かに繋ぎ止めて欲しいと望みながら、返すだけのエネルギーはない。
「ダメだよな、それじゃあ・・・」
自分からキスを仕掛けておいて、またグルグルと悩み始めた自分が憎い。けれど自分が同じだけの想いを返せない現実を知った時、きっと彼に嫌な思いをさせる。そしていつか離れていく。
気持ちを返せないくせに、別れを告げられるのは怖い。臆病で厄介な自分。開き直れた気がしたからキスをしたというのに。
「なるようになるか・・・」
迷った挙句、自分の家の鍵を付けているキーケースに並べて取り付ける。キーケースを眼下で揺らして鳴った金属音に、少し嬉しくなった。なんだか自分が途轍もなく現金な生き物であるかのように感じる。
香月はこんな面倒な自分の何が気に入ったんだろう。キーケースの中にお行儀良く収まった鍵を見つめて、深く溜息をついた。
貰うと使いたくなるのが心情で、会社から帰路へ着くたび、鍵を取り出しては眺めることを繰り返していた。結局誘惑に負けた自分は、金曜日、自宅にしているマンションへは向かわず、地元へと向かう電車に揺られている。
今日はトラブル続きだった。自分が、というより部下の尻拭いだ。ただそれ自体は日常茶飯事だ。部下がのびのびと仕事ができるように策を万全に練っておくのが自分の仕事。それでも彼らがミスをすれば一緒に頭を下げに行く。けれど立て続けに起これば愚痴りたくもなる。そして思い浮かんだのが香月の顔だった。
会いたくなったら来てもいいなんて狡い手だなと思う。強制されているわけではないから、行くのは自分の意思。自分の好意を晒すようで居た堪れない。けれどこの距離感は自分にとって、とても心地良いものだった。
もう夜も更けている。降り立った駅は自分がいつも使う最寄り駅より灯りが少なく薄暗かった。自分が乗った電車は終電だ。こんな時間に訪ねるなんて非常識だと思いながらも、もう後戻りもできない状況で、気の進まない道を歩く。
香月の住むマンションの前で佇む。やっぱり来ない方が良かったかと駅へと再び足を向けようとした時だった。
「勝田さんッ!」
頭上から突然声が降ってきて見上げると、二階の通路から香月が身を乗り出してこちらを見ている。
見つかってしまえば観念するしかないだろう。そう思う反面、何だか嬉しかった。
自分は本当に厄介な人間だ。そう思いながらも、ポケットの中でキーケースを握り締めた。
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