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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

幸せを呼ぶ花15

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幸せを呼ぶ花15

彼が逝ってしまった後、抜け殻のようになっていたかというと、むしろ逆だった。

すぐに控えていた受験のために猛勉強し、夏に志望していた大学より難しい大学に合格した。彼が出来なかったことを代わりにやるんだと力み過ぎているくらいだったと思う。

大学に入ってからも、恋に対して消極的だったわけではない。ただ、同じ性癖の人を日常生活の中で見つけるのが困難で、お酒が飲めるようになってから、その手のバーに出入りするようになった。

厄介だったのはむしろ自分より相手の大人たちだった。純粋に恋がしたい自分と、身体だけを求めてくる彼ら。徐々に擦り減っていく神経とは裏腹に、心と身体のバランスの取れない関係が当たり前になっていった。

しかし疲れてその生活に終止符を打ったのが四十歳の時。それからは仕事だけに全神経を捧げた。

心が擦り減ったのは自分の責任だ。周りに流されて、確固たる恋愛観を持てなかったことにある。誰かの、ましてや蓮の所為ではない。彼がいない日々に寂しさは募ったけれど、こうなった責任を彼に押し付けるなんて、自分で自分が許せない。だから全て自分の責任なのだ。

手を離した先から、白いカーネーションがクルクルと水面を踊って流れていく。彼の顔を思い出して、また切なさが一つ降り積もった。

蓮は未来の自分が透けて見えていたんだろうか。恋を貫くこともできず、一夜限りの相手を探しては彷徨い疲れていった自分。こんな寂しがり屋の自分を置いて、彼は逝ってしまった。

彼とした約束はずっと胸にある。けれどどうしたら彼なしで笑顔でいられるのか、幸せになれるのか、今もずっとわからない。

過去に想いを馳せて黙って水面を見つめているだけの自分に、香月は何も言わない。結局思い出に一人浸るだけで、香月に伝えたいとは思わなかった。やっぱり、思い出話なんて柄じゃない。
蓮との思い出は、自分だけのものだ。彼は関係ない。立ち入ってなど欲しくない。

けれど一方で助けて出して欲しいと思うのは我儘だろうか。激情こそないものの、香月と共にいる心地良さは勝田を少しずつ侵食していた。とても穏やかで優しい侵食。

「香月くんはさ、俺とどうしたいの?」

「どうしたいって、そうだなぁ・・・一緒にご飯食べて、散歩して、手を繋いで、抱き合って・・・あなたに笑って欲しい。いつも・・・寂しそうだから。」

「俺、寂しそう?」

「はい」

こんな年下の青年に見透かされるなんて、まだまだ自分も修行が足りない。けれど胸にストンと落ちてきた言葉は心を温かくした。

これは身を削るような恋とは違う。何の疑いもなく全身全霊で恋をしていたあの頃とは違うのだ。味気ない日々に少し色を添えるような恋。しかしそれも心に潤いをくれるものには違いない。ずっと自分が欲しくて手に入れられなかったものだ。

蓮の代わりが欲しいわけではない。彼はずっと自分の心の中で生きているのだから。

人恋しく寂しいことを自覚させたのは香月だ。ならばその責任を取ってもらおうと思うのは傲慢だろうか。

「香月くん」

首を少し傾げて伺ってきた彼の顎を掬い取り、そっと唇を重ねる。驚いたまま硬直した彼の顔が可笑しくて、勝田は小さく声を上げて笑った。








 








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