空は限りなく晴天だ。夏空に汗ばむ身体。土手沿いの道は遮るものが何もないから、強過ぎる陽が皮膚を痛めつける。肌の白い勝田には酷なのではと思って彼の方を見るが、特に気にする風でもない。
この人の過去に何があったのか、知りたいと思う。人と深く付き合うことを避けているのは何故なのか。近付きたいと望んでも、勝田はそれを拒む。
勝田が拒むものは愛なのか、人そのものなのか、自分はそれすら知らない。勝田の瞳が寂しそうに見えるのは、心の底では愛を注がれることを望んでいるからなのだと信じたかった。
本当はとても不器用な人。そう思えば、今までの言動を理解できるような気がした。相手を翻弄して惑わせ、自分の寂しさを覆い隠している。けれど好きだと言ったら、またはぐらかされるだけだろうか。
「勝田さん。何で浮気したんですか?」
「君が・・・俺に会いたくないかな、って。」
それでも結局趣味が合わないからとうちへ戻って来るあたりは、勝田らしいところかもしれない。頑固なところだけが、唯一この人を人間らしくみせる。
「待ってたんですよ、ずっと。」
「そう・・・。」
大好きな花と戯れる仕事が身に入らないほどこの人を待った。おかげで午前中に終えるべき仕事も終えられず、午後はこうやって店を閉めて付いて来てしまったから、商売になっていない。
土手沿いの道を、勝田は空の方だけに視線を向けて歩いている。会話をしているのは自分なのに、勝田の目は皐を見ることはなく、遠く彼方へ向けられたままだ。
一体、この花を贈っている人を、どれだけの年月をかけて想い続けているのだろうか。
この人は今を生きていない。
ずっと遠い過去に魂を置いて、肉体だけで今を生きているように見える。
しかしそれでも社会人としてはそれなりの地位にいるんだろう。身なりも整っているし、醸し出す雰囲気は仕事を誇りにしてきた男のものだ。男が欲しいと憧れるものを、この人は全て持っている。心だけを置き去りにして。
「勝田さん・・・俺に好かれるのは迷惑ですか?」
答えを待ったけれど、勝田は空に視線を向けたまま何も答えてはくれない。汗の気配を感じさせないシャツが風にたなびいて、涼しい顔で陽の光を全身で受けているだけだった。
「誰だったら振り向くんですか?」
「・・・ここにはいない人かな。」
いっそ清々しいほど澄んだ瞳でそんな事を言われたら、もう返す言葉など見つからない。勝田の言葉が胸に突き刺さる。おまえじゃ駄目だと、はっきり口にされるより堪えた。けれどどうにか足掻いてこの人の心を解く手立てが欲しい。だから好きだと叫びたい気持ちにブレーキをかけて、一歩ずつ彼に近付く術を探す。
「教えて下さい。その人のこと・・・勝田さんの好きな人がどんな人なのか、知りたい。」
今、彼が白いカーネーションを贈ろうとしている人が、きっと全ての鍵を握っている。
「やっぱり・・・変わってるよね、香月くん。」
「・・・。」
「昔話なんて柄じゃないんだけどな。」
この前とは違う場所で、勝田が土手を下っていく。心の鍵を開けられる日が自分に来るだろうか。勝田の心は不透明で、ぼんやりとしか見えない影を自分は眺めていることしかできない。
彼の背中を追いかけて、皐も土手を下った。
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朝霧とおる