*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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他の花屋で調達した花束を手にぶら下げて現れた自分をどう思うだろう。つくづく自分は性格が悪いなと内心苦笑する。けれどそんな自分を見て、むしろホッとしたような顔をした香月。どれだけ惚れてるんだろうと、少し憐れにも思えた。
こんな厄介な自分など、よせばいいのに。もっと報われる恋をすればいいと思ったところで、考えるのを止めた。自分だって、届かない想いをずっと抱えてここまできた。だから人の事をとやかく言う資格などないだろう。
「ごめんね。浮気しちゃったんだ。でも、やっぱり君の作ってくれる方が好きでね。」
黙ってこちらの話をただ聞いている香月に苦笑して、手に持っていた花束を突き出した。
「これは君にあげる。」
香月は花束を受け取りながら苦笑する。気まぐれな自分に呆れただろうか。
今日は色とりどりのカーネーションが並んでいるのだな、と今までより幾分親しみを持って花々を眺める。花には詳しくないけれど、カーネーションくらいは知っている。目に付いた白の群れも、またカーネーションだった。
「今日はこれにして。」
「わかりました。」
彼が嬉しそうに微笑んだのは気のせいだろうか。すぐに屈んでこちらに背を向けてしまったのでわからなかった。気持ちには応えないくせに、彼から花に映える笑顔を消したくない、という自分の願望が見せた幻かもしれない。
「勝田さん。いただいたコレ、先に活けてきて良いですか?」
「うん、どうぞ。」
自分の勝手で無理矢理渡したようなものなのに、嫌な顔をせず、花束に巻かれたリボンやセロファンを取り払っていく。
「ねぇ、それも売っちゃえば。」
「嫌ですよ。折角、勝田さんから初めて貰ったものなのに。」
「・・・ごめん。」
何故だか謝らずにはいられなくて、つい口に出る。何に対しての謝罪なのか、自分でもよく分からなかった。
「花に罪はないですから。だから・・・有難く、いただきます。」
何処からか取り出した花瓶に、花を活けていく。自分が同じように花瓶へ活けても、こうもバランス良くはいかないだろうなと思った。
自分の手元に来たばかりに、行き場を失いかけていた花は、香月の手によって息を吹き返す。彼の手によって新たな生を与えられて、きっと彼らは幸せだろうなと羨ましくなった。
今ある幸せを大切にできない手と、新たな息吹を与える手。もしかしたら愛しい友が自分の元からすり抜けていってしまったのも、その所為かもしれない、なんて暗い考えが湧いて出てくる。
「勝田さん。白のカーネーションにはね、私の愛情はずっと生き続けてる、っていう意味があるんです。」
「・・・重いね。」
「でも・・・大切な人を忘れる必要なんてないですよ。大事な人を想う、そのままのあなたで良いと思います。」
「そう・・・。」
てっきりまた告白される流れかと思い身構えていたが、香月は白いカーネーションと向かい合ったきり、それ以上何も言葉を発しなかった。
魔法の手で花たちが彩られていく。美しく咲いているのはほんの一時でも、命の輝きは強く逞しい。やはり香月の手に掛かると、全てが鮮やかになっていく気がした。目を離せないでいると、香月がふとこちらに視線を寄越す。
「気に入っていただけましたか?」
「うん。やっぱり君のがいい。」
「ありがとうございます。」
あの土手に誘ったら、さすがに嫌な顔をされるだろうか。それでも声を掛けたい衝動を堪え切れなくて、口を開く。
「君も来てよ。」
「・・・いいんですか、俺が行っても。」
「もちろん。」
肯定の言葉に胸を撫で下ろす。人の顔色を伺って緊張するなんて、自分は滅多にない。珍しい現象に自分でも首を傾げたくなる。
この青年に、見放されたくないのだ。
唐突にそこへ考えが思い至って愕然とする。惹かれているんだろうか。それも自分が自覚する以上に。
打ち消そうと思っても微かに湧いてくる不安。もう、恋はしたくない。いずれなくなってしまうものなら、最初からない方がいい。確かに自分は過去からそう学んだはずなのに。
「勝田さん、今、お店閉めるんで、待っててもらえますか?」
「ああ、うん。」
手際良く片付け始める香月の背中を目で追う。しがみつきたい衝動と、一刻も早く逃げ去ってしまいたい衝動。ごちゃ混ぜになった心は厄介な事この上ない。勝田は心に湧いた不安を払拭できずに、柄にもなく俯いた。
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