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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

先生2

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先生2

先に帰宅していた彼が、良い香りを纏ってキッチンで出迎えてくれた。先にビーフシチューだけ煮込んでくれていたらしい。彩りを添える前菜を作るのが、今日自分に与えられた役割だ。

要はコートと鞄を部屋へ片付けにいき、手洗いうがいを済ませた後、エプロンを着けてキッチンへ入った。

「達也さん、生ハムとトマトをモッツァレラチーズで和えたやつとかどう?」

「いいね。任せる。」

帰りが遅くならなければ、なるべく自炊することにしている。なんだかんだで七年も暮らしている相方の和泉達也(いずみたつや)は、一人暮らしが長かったためか、あるいは元々マメなのか、暮らし始める前から手料理を振舞ってくれた。

男二人、互いに仕事人間だから、あらゆることが味気なくなってしまいがちだ。だから二人にとって料理をすることは、一緒に暮らしていて生活感をおぼえる数少ない習慣といえた。

「疲れたのか?」
「え? うん、まぁ・・・」

「また、急かされたとか?」

「・・・なんで、わかるの・・・」

「雑魚キャラ攻略するみたいなもんだって思っときゃいいんだよ。」

「攻略本とかないかな。」

「あれば俺も苦労しなかったんだけどな。」

「しばらく続きますよね。」

「だろうな。」

三十歳という境目は本人以上に周りがその年齢に過敏な反応を見せる。けれど結婚を突きつけられても、自分や和泉のような人間にとっては困惑の種でしかない。異性をそういう目で見られない。その分苦労は背負っているのだから、これ以上は勘弁してくれと思ってしまう。

「今日はお見合い写真まで持ってこられて・・・」

「断ったのか?」

「当たり前ですよ。」

振袖姿の綺麗な女性だった。でもそれだけだ。生理的にダメなものはどうすることもできない。

「顔立てろって言われたら、どうすんだよ?」

「知らないですよ。意味のないことに時間取られたら、その方が後悔します。」

「潔いね、おまえは。」

「達也さんは会うだけ会ったことある?」

「あるよ。」

時々ふとした瞬間、こういう話になることがある。要がそういう年頃に差し掛かっているからだ。けれどいつも込み入って聞くことはない。そして、あると和泉が答えてきたことに少しショックを受けた。そこは隠しておいて欲しかったな、と勝手なことを思う。

「断るために会ったんだけどな。あまりに会ってくれ、って先方がしつこいから。」

「・・・。」

「頼むから、そういう顔するなよ。ダメだって再認識して、覚悟したんだ。」

「男と付き合っていくことを?」

「というより、おまえと付き合うことを、だよ。」

並び立ち、コンロの前で鍋を掻き回していた和泉の手が止まる。和泉に見つめられて、胸がキュッと掴まれたように切なく疼いた。

「今のところ、その選択に後悔はないよ。」

和泉の言葉に顔が急速に火照っていく。要の気持ちが不安定だと、和泉はすぐにそれを見抜く。そして要を捕らえて離さないために言葉を惜しまない。和泉の懐の大きさに、要は何度も救われ、そしてその度に好きな気持ちが降り積もっていった。

「要、俺はな、おまえを手放す気はないから。」

「達也さん・・・」

「おまえが嫌がっても、もう離してやらないよ。」

「・・・そういう事、真顔で言わないでよ・・・」

「真面目な話だろ。」

和泉の手が要の頬に触れる。顔を火照らせ、恐らく赤くなっている自分に、和泉は揶揄いの視線を向けてくる。どんなに時が経っても、この人は一枚も二枚も上手だ。

「それだけおまえが大事だよ、っていう話。」

「・・・。」

「嬉しくない?」

もうさっきまで落ちていた気分が嘘のように晴れる。和泉の臆面もない甘い言葉に、頭は簡単に沸騰した。

「な、要?」

和泉の視線を振り切って、切ったばかりのトマトを皿に並べ、生ハムとチーズを盛り付けていく。そんな要に和泉がくすりと笑って、火から鍋を下ろした。

「明日もシチューだな。」

「・・・そう、ですね。」

頬に熱を感じたまま、和泉に頷く。和泉に視線を戻すと、満足そうに和泉が笑った。














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