ちょっと遅めの夏休み。二人揃って取れたのは世間の夏休みからずらしたからだ。久々にもぎ取った長い休みを余す事なく満喫する。
「和希、これもう食べられる?」
「もうちょっと焼いて。」
「まだなのか・・・。」
優希が残念そうに呟いて、網の上で焼いている貝をトングで突く。潮の香りを全身に受けながら海の幸を満喫できるなんて贅沢だ。和希と優希は高校二年の夏休みに訪れた懐かしの民宿に身を寄せていた。当時世話になった面々も健在で、彼らも自分たちのことを覚えていた。
「君は随分男前になったよなぁ。もう十年以上も経つのか。こっちも老けるわけだよなぁ。凄い量の花火、この庭でやって帰っただろ。あれには笑ったよ。」
「あの説はご迷惑お掛けしました。」
「いやいや、迷惑だなんて思ってないよ。二人で蹲っていつまでも花火やってるもんだから可笑しくて。しかも派手なのじゃなくて、線香花火だったよな?」
「はい。鞄いっぱいに詰め込んできたんですよ。」
そう言いながら優希に視線を投げると、当の本人は網の目の前で貝と睨めっこをしていて、こちらの視線には気付いていない。
「彼が持ってきたわけ?」
「そうなんです。真冬でもあるまいし、随分荷物が多いなとは思ってたんですけど、まさか中身が花火だとは思ってなくて。部屋で開けて吃驚です。」
若旦那は当時と変わらない快活な声で盛大に笑う。思えば不安定だったあの頃。その日々を思い出し、誰かと懐かしんで笑い合える日が来るとは思っていなかった。時間が解決してくれることはたくさんあるのだと身に染みて思う。
「ところで少し無粋な質問かもしれないけど、おじさんの野次馬根性っていうのかな、ちょっと聞いてもいい?」
「何ですか?」
「君たち、あの頃からホントにただの兄弟?」
和希は問われた意味をすぐに理解し、小さく首だけ横へ振った。誰それ構わず言う気はないが、無理に隠す気もない。若旦那がやっぱりなと苦笑したので、バレていたことに内心驚く。当時はちゃんと隠しているつもりだったからだ。
「雰囲気が兄弟っていうには随分怪しげだったもんだから。」
「そんなにわかりやすかったですか?」
「高校生にもなって兄弟仲良く、こんな寂れた街に来ようと思うか?」
彼の言うことはもっともで、人目につかないつもりがかえって悪目立ちしていたということだろう。でも当時は必死だったわけだから、そんな間抜けな自分たちを懐かしくも愛おしく思う。
「和希、もういい?」
大好物の貝を目の前にとうとう我慢の限界がきたのか急かすように尋ねてきた優希に、笑って頷く。嬉々としてトングを使って網から貝を降ろすと、相変わらず小さめの口をいっぱいに開いて頬張っていく。その微笑ましい光景を前に、手に入れたかったものをちゃんと手にした実感が湧く。
「優希、俺の分も食べていいよ。」
彼の目が輝いて、和希の分として取り分けられていたものを残さず攫っていく。こんな事で喜んでくれるなら、いくらでも譲ってあげたい。込み上げてくる幸福感を噛み締めて、和希は優希の姿を目で追い掛け続けた。
いつも応援ありがとうございます!!
励みになっております。
Twitter
@AsagiriToru
朝霧とおる
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N