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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「9月2日20:00」

一つ一つ思い出を辿って、ラストイベントの線香花火を手にする。鼻を掠めていく火薬の匂いが懐かしい。線香花火をやったのは、あの日以来なのだ。

「和希より長く持っていられれば和希と別れないで済む、って願掛けしながらやったんだ。」

「そっか・・・。それで結果はどうだったの?」

「ちゃんと叶ったよ。僅差だったけど、俺の火の玉の方が長かった。息止めて必死だったんだ。」

苦笑して和希の顔を見上げると、穏やかな眼差しがこちらを見ていた。あの時抱いていた苦しさはもう胸の奥底に仕舞い込まれている。浮かび上がるのは懐かしさだけだ。

「優希、これから先、不安に思うことがあったら、ちゃんと俺に話して。一人で抱え込んだりしてほしくない。」

「うん。」

「頼ってよ。」

「今でも十分頼り過ぎてるけど・・・」

「我儘言ってくれないと、心配になる。」

「俺、ワガママ?」

「あれ? 自覚なかったの? 我儘言ってくれないと、落ち着かない。優希が優希じゃなくなる。」

「何それ。」

口を尖らせて抗議すると、和希が身体を震わせて笑い、線香花火の火の玉が地面に吸い込まれていった。

もう線香花火を見ても胸が締め付けられるほど切ない気持ちになることはないだろう。過去の自分を振り返って、少しセンチメンタルになるだけだ。

「また来たいな。」

「そうだね。」

働き盛りの男二人。なかなか休みは合わせられないけれど、時々立ち止まって振り返る時間が欲しい。そうすれば今の幸せを噛み締めて、多忙な日々を乗り越える活力を得られる。人は案外今ある幸せを見失いやすい。一緒にいられるのは当たり前ではない。それを忘れたくなかった。

「まだまだ終わらないね。」

山になっている線香花火を一瞥すると和希が呆れた顔を寄越す。

「多過ぎるんだよ・・・。」

そんな遣り取りすら嬉しくて、また一つ線香花火を手に取って、更けていく夜に火の玉を灯し続けた。





 








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