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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「4月4日5:00」

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沢田家の双子「4月4日5:00」

長い夢から徐々に覚醒していく。目覚ましに叩き起こされるより自然な目覚めは気分がいい。時計の針を覗くと、まだ朝の五時過ぎだった。

優希は布団の中で伸びをして、隣りで静かな寝息を立てる和希を見つめた。懐かしい夢の中でも彼はやっぱり大好きな人。この人以外誰もいらない。だから唯一心から愛せる和希を自分から奪わないで欲しいと毎日願って一日を始める。和希にもそんなことは話したことがない。きっと心配性だと苦笑されてしまうだろうから。

二人で仲睦まじく生活をしてきた中で一度だけ気まずくなったことがある。なかったことにできるなら、そうしたい。

和希と二人で飲んでいて、大内と過去に関係を持ったことをつい話してしまったのだ。

寝たことを後悔しているわけではない。だからこそ他人には理解し難いことで話が複雑なのだ。

壊れそうになっていた自分の受け皿になってくれたのは間違えなく大内だった。その事実は変わらないし、あれで良かったのだと今でも思っている。けれど唐突に事実を聞かされた和希は内心良くは思わないだろう。弱かった自分を責めてくれればよほどマシだったのだが、和希は優希を責めたりしなかった。

時々大内と会う時は僅かばかり緊張する。和希が意識していることがわかっているから、心配させまいと無意識にたくさんの予防線を張ってしまう。何もないことをアピールし過ぎて、かえって空回りしている感が否めないのだ。

あんな失態をしなければ大内の立場を微妙にすることもなかったし、和希に無用の心配をかけることもなかった。どうにかしたいと思っている。でもそう思って数年の月日が経ち、今なお未消化なままだった。

できることなら勇気を出して正直な気持ちを聞き出したい。それで和希の気の済む方法が見つかるなら、何でもしたかった。

「和希・・・ごめん・・・」

「・・・何がごめん?」

寝入っていると思っていたのに、ただの狸寝入りだったらしい。驚いて硬直していると、和希がふっと笑みを零した。

「優希、教えて? 何が、ごめん?」

咄嗟のことに目が泳いで、その愚かな視線を和希の目が追いかけてくる。

「えっと・・・」

起き上がって逃げようとすると、腕を掴まれて布団に逆戻りする。しっかり目と目が合ってしまって、どうしようかと朝の回らない頭で考える。

「もう、行く支度始めなきゃ・・・」

「こんな早いのに?」

消え入るような声で抵抗しても、和希は顔を覗き込んできて逃げることを許してはくれなかった。観念しようかどうしようか、更に悩んでいると、和希の方から口火を切った。

「優希が俺に罪悪感を抱いてるんだとしたら、思い当たるのは大内先輩のことくらいしかないな。」

見事に言い当てられて、もはや黙るしかない。

「当たり?」

気まずくて目を思い切り逸らして、彼の腕の中から逃れようと暴れる。けれど、力で和希に敵うはずもなく、すぐに組み敷かれてシーツに縫い止められた。

「優希はさ、勘違いしてるよ。」

穏やかな口調と表情は優希を責めるようなものとは程遠かった。

「男として悔しいだけなんだ。優希の気持ちにも、自分の気持ちにも鈍感だったことも悔しい。でもあの頃、俺には先輩みたいな包容力はなかったし、そんな余裕、欠片もなかったんだ。優希が何に傷付いて苦しんでるのか、ちっとも気付けなかった。」

「和希・・・」

和希の手がゆっくり頬を撫でていく。触れた場所から包み込むような温かさを感じる。

「悔しいって思うのは、好きだからだよ。優希が先輩とのことを気に病むのも、俺を好きでいてくれるからこそだし。みんなに支えられて、大事にされて、優希はここにいるんだから。優希は今、ちゃんと幸せだって思えてる?」

間を空けず頷き返すと、和希が穏やかに微笑む。

「だったら、それでいいじゃん。」

肯定を促すように顔を覗き込んでくる。合った目が思いの外穏やかで、胸を撫で下ろす。

「和希・・・ありがと。」

「だから、もうお終い。」

「・・・うん。」

「あんまり気にされると、かえってまだ何かあるのかって勘繰りたくなるだろ?」

「何にもない!」

「だったら、な?」

「うん。わかった。」

和希のこういうところが好きだな、と思う。優希が気に病んだりしないように先回りして不安を取り除いてくれる。そしていつも二人にとって最善の道を切り拓こうとしてくれる。

自分の人生は和希の優しさに支えられている。優希という名は和希の方こそ相応しかったんじゃなかろうか、なんて考えてしまう。

「優希、もうちょっと寝よう。まだ大丈夫だろ?」

「うん。」

あと一時間は眠れる。もやもやしていたものが取り除かれて眠気が襲ってくる。ずっと恋してきた和希の横顔を眺めながら、優希は再び甘い微睡みの中に落ちていった。












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