二人で暮らし始めて早半年。部屋に両親は一度も招いていない。押し掛けられると困る理由があるからだ。母はしきりに片付けに行くと意気込んでいるけれど、今のところ丁重に断っている。なぜならベッドが一つしかないからだ。これを見てしまえば、さすがに息子二人が言う同居の意味を悟られてしまうだろう。
来客もあることを考えて、ダミーで良いからベッドは二つ置こうと和希の方は提案していた。けれど優希が頑なにそれを嫌がるから、結局キングサイズのベッドを一つ部屋に置いているだけだ。
優希はむしろここへは誰一人連れ込みたくないらしい。和希も特段呼びたい誰かがいるわけではないが、万が一、ということがある。部屋へ上げざるを得ない状況になった時、これでは言い訳のしようがない。何度も優希にその事を訴えたが、一向に折れない優希に、結局和希の方が折れたのだ。
「優希、そんな風に弄られたら出る・・・」
「出して?」
隙あらば触れてくる優希に、煽られっぱなしだ。明日和希は休みだが、優希は仕事だ。そういう時は優希が手で高めてくれる。優希は好んで口淫をしたがるけれど和希が頑なに固辞するので、そうすると決まって手で弄り始める。かつての拙い手付きではなく、もう慣れたものだった。
扱く手が強く速くなり、和希の欲望が優希の手に弾ける。息を何度も詰めながら、迸りが止まるまで扱かれる。
「ッ・・・うッ・・・」
自分より一回り小さい手を汚していく快感は言いようのない征服感に満たされる。同じ手なのに、自慰とはまるで違うそれ。何度されても慣れずに新たな熱を生む。
「はぁ、はぁ・・・」
「気持ち良かった?」
「・・・。」
「いっぱい・・・」
汚れたままの手を舌で舐めようとするので、慌てて制してティッシュで拭い去る。
「絶対不味いから、やめて、優希。」
「和希だってしてくれるじゃん。和希のだからしたいのに・・・」
この一ヶ月程、同じ攻防戦を繰り返していて、今のところ和希に軍配が上がっている。嫌なわけではない。居た堪れないのだ。優希のものを自分がする分には何の抵抗もないのに、どうしてもその一線を超えるのに抵抗があった。
「和希のこだわりが、よくわかんない。」
拗ねてそっぽを向いた優希を慌てて抱き込んで宥める。暫く腕の中でじたばたと動き回っていたけれど、力で敵わないことを悟っているらしく大人しくなるのにさほど時間はかからなかった。
「和希」
「なに?」
「ありがと」
突然のお礼に何事かと優希の顔を覗き込むとやけに神妙な顔付をしていた。
「あのね、和希・・・。もし、十六歳の自分に会うことがあったら、大丈夫だよ、って言ってあげたい。」
「・・・辛かったから?」
「うん。でも・・・」
「でも?」
「今、とっても幸せだから。大丈夫だよ、って教えてあげたいな。」
「うん・・・」
少し大人になって、一昔前の自分を冷静に思い返す。人生はその繰り返しなんだろう。振り返って何故そんな事で悩んでいたのだろうと思っても、当時は精一杯なのだ。何度も壊れそうになって、必死にしがみ付いて何とかやり過ごす。
いつか全てを穏やかに思い起こせる日がやってくるといい。そう願いながら、互いの温もりを感じ合える喜びに胸がいっぱいになった。
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朝霧とおる
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