高校時代の先輩、大内要(おおうちかなめ)と駅前の書店でばったり遭遇し、一杯やることにした。一年に一度程のペースで細々続いている関係は、互いの近況を酒の肴に報告し合う丁度良い距離感。優希は昔から大内との付かず離れずのこの距離感を気に入っている。
和希に報われない恋心を抱き白熱していた高校時代、彼が唯一心の内を明かせる相手でもあった。尊敬とか感謝とかそれだけでは言い表せない、けれど和希を好きな気持ちともまた違う好意を抱いている。
「ちょっと前に、弟くんのレストランへ食べに行ったよ。」
「美味しかったでしょ?」
「凄く。っていうか、何で優希が自慢気なんだよ。」
「和希が褒められると俺も嬉しいから。」
「上手くいってるんだな?」
「うん。」
正月に両親へカミングアウトしたことを話したら驚かれた。そして、おまえたちらしいな、とも。
「大内先輩は?」
「上手くいってる・・・かな。」
言葉では遠慮がちでも、笑った顔がとても穏やかだったので、きっと上手くいっているのだろう。
大内は同性の男しか恋愛対象にならない。和希しか恋愛対象にならない自分よりは間口が広い気はするけど、それでも誰それ構わず言えることではない。家族にも職場にも明かせずにいるという。
「まだ、言う勇気はない、かな・・・。言えばいいってものでもないだろうし。」
「そう、ですね・・・。」
あまり深く追求したことはないが、大内の恋人は高校時代の養護教諭だ。当時はその関係を話してくれなかったので全く知らなかった。ちゃんと付き合い出したのは社会人になってからだというから、優希に負けず劣らず気の長い恋慕だなと思う。後で聞かされ驚いたものだ。
お互い男同士、世間を前にして苦労することも多い。周囲が結婚を意識し出す頃合いでもあり、優希も大内も医者という職業柄、縁談話を持ち込まれることも少なくないのだ。どうしても後ろ暗く思って、気に病んでしまうこともある。
ただ、仕事が充実しているのは幸いといえた。パートナーと上手くやっていくためにも、また友人関係を良好に保つにも男にとってそれは結構重要なことだったりする。
「向こうは三十代の時、結婚しろって周りから散々突かれてたみたい。だけど四十過ぎて、周りも諦めたらしくて何も言われなくなったんだってさ。」
「大内先輩、愛されてますね。」
「今頃話してくれたんだよ。当時は全然知らなかったし、頭も回らなくて気付かなかった。」
「それだけ大事にされてるってことじゃないですか。」
照れ臭そうに笑う顔が幸せそうで、ホッとする。幸せの数は多い方がいい。
「またな、優希。和希には飲んでくるって連絡したのか? 俺の所為で喧嘩されたんじゃたまんない。」
「メールしたから大丈夫です。先輩もお元気で。」
乗る電車の方向が違ったので、改札口で手を振って別れる。次に会う時、またお互いに幸せを語り合える事を願って。
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