時間が全てを解決してくれるわけではない。しかしそれでもこの二ヶ月が両親にとって心の整理をするのに一役買ったらしい。母から連絡が来て、外で会うことになった。
「母さんも父さんも仕事が忙しくて、小さい時から構ってやれなかった。何がいけなかったのか、そんな事ばかり最初は考えていたんだけどね・・・。」
「父さんと母さんが悪い、っていう話じゃないよ。」
「そうね。きっと、そういう事じゃないのよね・・・。母さんね、ようやくそこまで辿り着いたわ。」
正月にだって会っていたはずなのに、母はこんなに年を取っていたっけ、と思う。自分と和希が成長した分だけ、両親だって年を重ねたのだ。その両親に心労を与えたのかと思うと、少しだけ罪悪感が過る。
「どうにもならないのね?」
「うん。」
優希と和希のどちらもが頷き返すと、わかったわ、と母の呟くような小さな声が耳に届いた。父も一つ頷くだけ。意外に呆気なく、そして苦く重い承諾だった。
その話はそれっきり話題に上がることはなかった。認めてくれたというよりは、お互いどうすることもできないことへの戸惑い。無理にでも折り合いをつけるしかない、というのが正直なところなのだろう。
自分たちが子どもだったら、きっと反応は違っていた。けれどとっくに親元を巣立ち、仕事を得て自立している。
かつて心を通わせながらも、和希は自分を置いて一人先に自立した。離れて暮らすことが辛かったこともある。恋しくて、頭がそれだけでいっぱいになってしまった夜がどれだけあったことか。
しかし優希が自立し、互いが生きていく糧を得た時、自分はどこかでホッとした。自分で全ての責任を負って、和希を愛することが赦される。誰の所為にもさせない。堂々とそう言えるのだと思った。
大人になる事は楽しいことばかりではない。叶わない現実をたくさん知ることでもある。けれどそうだったとしても、やっぱり大人になって良かったのだと、優希は心底思った。
「はい、これ。誰にも貰えないんじゃ、可哀想だから。」
母の差し出された箱を二人で見つめて苦笑する。そうか、もうすぐ世の乙女たちが色めき立つバレンタインデーかと合点がいく。
可哀想だなんて母は言ってくれるけれど、そんな事はない。和希はウエイターの女の子たちやお客さんから人気があって、毎年この時期は嫌というほどチョコレートを貰ってくる。優希としては戦々恐々ものだ。二人で暮らし始めて最初に迎えたバレンタインデーはその事で喧嘩したほどだった。
例年のことを思い出して百面相をしていると、和希が顔を覗き込んでくる。恥ずかしくなって目を逸らすと和希が肩を震わせて笑うのを堪えている。頭にきて思い切り足を踏み付けると、途端に顔を顰めた。
「何やってるのよ、あんたたちは・・・」
今日一日、何処か遠慮したように自分たちに話しかけていた母の声音が、いつものトーンに戻る。
時間はまだまだ掛かるかもしれない。けれどこれで良かったのだと、ようやく思えた。
にほんブログ村
B L ♂ U N I O N