昼はお節料理に飽きて、母特製の手抜きラーメンをすすった。シェフである自分は料理を作るという意味ではプロだが、人に作ってもらうと旨い不味いという次元を超えた有り難みを感じる。不思議なものだ。いつもならこの空気感に家族の温かみも感じていたところだが、昼を終えて例の話を切り出せば、一家団欒の空気は途端に凍りついた。
「どういうことなの?」
母は文字通り頭を抱えて、青褪めた。温和な父の顔も今回ばかりは強張った。
「倫理的に駄目なこともわかってるし、優希も俺もずっと悩んでた。でもやっぱり好きな気持ちは変わらなくて、一緒に二人で暮らし始めてから・・・そういう関係なんだ。」
目の前で狼狽え、泣き始めた母にどんな言葉を掛けたら良いのかもわからない。優希と二人で目を合わせて溜息を吐いた。
「父さん、母さん、ごめん。でも・・・俺たちも悩んで、苦しんで出した結論なんだ。許してもらえなくても、別れるっていう選択肢はないから。」
苦い顔をしたまま、じっと二人の言うことに耳を傾ける父。母ほどの動揺は窺えなかったが、見極めるような視線は痛かった。しばらくの沈黙は堪えたが、父が重い口を開けた。
「優希、和希。父さんと母さんに、少し時間をくれるか?」
優希と二人で頷いて、少し肩の力を抜いた。
「隠し通すのも、きっといつか限界がくる気がしてて・・・。理解してもらうのが難しいのは、最初からわかってたことだから。困らせて、ごめん。」
「親を困らせるのは子どもの仕事みたいなものだけどな。でもこれはちょっと、想定外の事態だ。」
父が泣き続けている母の肩をそっと抱いて宥める。優希と和希にそのまま帰るよう目配せをしてきたので、二人で静かにリビングを出た。
悲しませて心苦しい一方で、ようやく重荷を肩から下ろせたような気がした。父が思ったより冷静でいてくれたことに驚き、父の存在を有り難く思う。二十八年間、子どもたちの無理難題を見守り続けてきた父はやはり偉大かもしれない。
玄関に飾られた去年の家族写真を見て思う。今年はこんな話をしたものだから撮ることができなかった。壊してしまったものと、それと引き換えに手に入れたもの。後悔を感じていないことだけが唯一の救いだった。
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