腕の中にいる穏やかな時間が、別の熱を生み始めても焦りはなかった。それはとても自然な事のように思えて、抱き締めてくれる彼を縋るように見上げる。
「優希、それはちょっと反則。破壊力あり過ぎるよ・・・。」
困ったように大内が小さく笑う。
自分はきっと今、欲情した顔を晒している。けれど大内の方は口で言うほど煽られているようには見えず、彼の心臓の音は穏やかで、冷静そのものだった。
「抱いてほしい?」
やけを起こしているわけではない。本心から抱いてほしかったので目を逸らさずに頷く。そして大内の腰に腕を回してしがみ付く。
ふと身体が宙に浮いて、側にあったベッドへ背中からゆっくり丁寧に降ろされた。
「嫌になったら、叩いて教えて?」
大内は何も聞きてはこなかった。優希の上着のボタンをゆっくりと外していく。器用に身包みを剥がされ暴かれても、不思議と羞恥心は湧いてこない。肌の上を滑る温かな手が気持ち良い。
「優希、目を瞑ってて。」
ずっとその優しい手を見ていたいと思ったのに、何故だろうと首を傾げて問う。
「自分の気持ちまで捨てる必要なんかないよ。一番好きな人のこと、忘れるな。」
大内の言葉が胸に突き刺さって、心が悲鳴を上げる前に涙が溢れた。着ていたものを脱ぎ去り、大内は自ら肌の温もりを教えてくれる。触れた先から痺れて心が震え、目を閉じれば無垢な身体は好きな人からの愛撫と勘違いをする。
キスはしなかった。どちらからも求めず、奪うこともなく。
緩く勃ち上がったものを大きな掌で包まれて扱かれると、甘い痺れが脳天を突く。自分でするのとは明らかに違うその刺激は、あっという間に優希を翻弄した。
「・・・ッ・・・」
静かで濃厚な触れ合いに、優希の先端からは蜜が溢れ始める。素直に快感を追って優希が腰を揺らすと、大内はさらに強く擦り立てて刺激をくれた。
一際強く扱かれて腰が浮き、白濁の蜜が弧を描いて何度も勢いよく飛び散る。声も上げずに優希は極まった。
「優希、この先もする?」
後孔の入口を大内の指が撫でていく。ぞくりと背後を伝った知らない感覚。怖れと期待が入り混じり、結局期待が勝った。ただ満たされたかった。
四肢を絡めて強請ると、宥めるように前を揉み込まれる。達したばかりのそこは過敏になり過ぎていて身体中が震えた。
大内が何かを手に取り、後孔に液体のようなものをたっぷり塗り込んでくる。視線で問うと、透明な液体の入ったボトルを見せてくれる。
「こういう時に使うものだから安心して。」
優希に笑いかけて諭すと、指を後孔に充がった。
押し入ってきた指は液体の助けを得て、抵抗なく狭い身体の中へと潜り込んでいく。しばらく卑猥な水音と圧迫感が交互していたが、指が増え、ある一点を突いた瞬間に急激な快感に全身が痺れる。
身体が跳ね、気付いた時には再び白濁の蜜が散っていた。初めて知る強烈な快感に頭が真っ白になる。
「ッ・・・んッ・・・」
「優希、俺も気持ち良くしてもらっていい?」
快感に翻弄され、わけもわからず頷く。すると先ほどまで体内で暴れ回っていた指がゆっくり去っていき、代わりに熱いものが後孔から押し入ってくる。
「息をゆっくり吐いて。そう、上手。」
指とは比べ物にならないほどの圧迫感が襲ってきて、顔を顰める。けれど想像していた裂けるような痛みではなかった。それだけ大内が時間をかけて溶かしてくれていたのだ。
浅いところで大内の先端が内壁を擦る。徐々にその大きさに慣れていった身体は、気が付くと大内の逞しい硬茎の全てを収めていた。
薄っすらと目を開けると、ゆっくり気遣うように抽送を繰り返す大内の顔は少し苦しげだった。心配になって彼の頬を両手で包み込むと、大丈夫だよと彼は微笑み返してくれる。
「激しくしても平気?」
本当は少し怖かったけれど、小さく頷き返して目を閉じた。
揺すられる腰から生まれる快感は、優しく、時に激しく身体を貪った。叶わない恋をして、別の人と身体を繋げて満ちていく不思議な感覚。瞼の奥に浮かぶ和希は優希を優しく抱いた。泣いてもその幻影は霞まない。元々ここに存在しないから。何が現実で、何が幻なのか、いっそわからないほど理性が飛んでしまえばいい。
温もりに包まれ、交わり、熱を吐き出す。人はこうやって溶かされ、絆され、痛みを癒すんだと漠然と思う。もうきっと、こんなに人を好きになることはない。今度人を好きになるなら、せめて報われる恋がしたい。
大内に抱いてもらいながら、彼の言葉に甘えて、和希の名を叫び続ける。枯れることのない心の声が、終わりのない想いの強さを物語っているようだった。
「・・・ッ」
「ぅ・・・くぅッ・・・」
優希が声なき声を上げて達し、大内も後を追うように低く呻いて身体を震わせる。そして壊れ物でも扱うように、そっと優希を抱き締めてくれた。
初めての人が優しい人で良かった。これで良かったのだ。
大内は泣きじゃくる優希の髪を宥めるように何度も何度も手で梳いていく。優希が泣き止むその時まで、片時も離れず抱き締め続けてくれた。
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