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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて7」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて7」

いつも通り一家団欒の休日になるかと思いきや、和希が彼女の今野を連れてくるらしい。散々迷った挙句、大内にメールをしたら、うちへおいでと誘ってくれた。

「あら、出掛けるの?」

リビングから廊下へ顔を出した母に頷いて、大内の家にお邪魔する旨を書いたメモを渡す。

「休みの日に出掛けるなんて珍しいじゃない。」

そう言う母は少し嬉しそうだ。声が出ない優希のことを引っ込み思案だと思っている節がある母にとって、休みの日に遊ぶ友人がいるという事実は喜ばしいことなんだろう。優希にしてみれば、和希と今野が仲良く戯れる姿など見たくなくて逃げるだけだ。ただの現実逃避。

玄関先まで見送りに来てくれた母に小さく手を振って歩いて出る。教えてもらった大内の家までさほど距離はない。駅を目指し、自分の家がある方とは反対側の改札口に向かう。そこで学校で見慣れている大内の姿をすぐに見つける。私服だとさらに大人びて見えた。

「おはよう、優希。もしかして、結構急いで出てきた?」

何故そんな事を聞くのだろうと思っていたら、大内が優希の髪の先端に触れる。

「可愛い寝癖。」

面白いものを見たという顔で遠慮もなく大内が笑う。恥ずかしくなって俯けば、笑ったまま頭を撫でられる。

そういえば家を出ることに必死過ぎて今朝は鏡を見ていなかったと気付く。なんだか、あまりに間抜けな自分に笑えた。



 


エメラルドの海と雲一つない空。この世のものとは思えない澄み切ったものたちは、心の澱みを洗い去る。その世界にしばし心を奪われて溜息をついた。

「この目で見てみたくなるだろ?」

大内に問われてすぐに頷き返す。

「目の前に本当にこれがあるんだ。自分が凄くちっぽけに思える。」

大判の高質な紙に写し出された一枚の写真を指しながら、大内が旅の思い出を一つ一つ話してくれる。

彼の両親は旅行好きで、大内も子どもの頃からいろんなところへ足を運んできたらしい。一番お気に入りの写真を見せてと頼んだら、この海の写真を見せてくれた。パラオにある、観光客があまり足を伸ばさない小さな島から撮った写真だという。

「自分の性癖とか将来のこととか、いろんな事に悩んで落ちてた時期でさ。でもここへ行ったら、なんかこう、悩んでる事も含めて自分だと思えるようになって。ありのままの自分を認めてあげられるようになって、楽になったんだ。少なくとも、自分自身に嘘をついて無理はしなくなったかな。」

大内が優希の髪をそっと撫でていく。その仕草があまりに自然で、ささくれ立った心が少しずつ解れていく。

「だから優希にも、いつかそう思える日が来る事を俺は願ってるよ。今の優希は脆くて、危なっかしくて、壊れるんじゃないかって心配になる。」

大内の穏やかな低音は胸に沁みた。複雑絡まった虚勢の糸が解れて、肩から力が抜けた。

「ごめん、ごめん。泣かせるつもりじゃなかったんだけど・・・。」

頬を伝った冷たいものを大内が手で拭ってくれて、初めて泣いていると自覚した。

大内が寄り沿って、そっと抱き締めてくれる。その温もりに安堵し、優希は大内の服を掴んでしがみ付いた。大内が一度優希の様子を伺うように顔を覗き込んで優しく微笑む。そして再び壊れ物を扱うように抱き締めてくれた。

顔に直接伝ってくる、静かで規則的な心臓の音が心地良い。誰かにこんな事をされたのが初めてで心拍数が上がってしまう自分とは違い、彼のそれはとても穏やかなリズムだった。スマートにできてしまう彼に慣れを感じたが、全く嫌ではなかった。むしろ安らぎを感じて目を瞑る。優希は久々に心が満たされていく感覚を味わった。









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