朝の不自然な別れを感じさせないくらい、優希はいつも通り和希の席に腰を掛け、本を読んで待っていた。クラスは違うので、部活に入っていない優希は、用がない限り放課後の大半を図書室で過ごし、和希の部活帰りに合わせて教室に寄ってくれる。しかし今日は図書委員の仕事があったはずだから、さほど待たせてはいないだろう。
和希はバスケットで流した汗を手早く拭って着替える。今の時期はすぐに身体が冷えるから、しっかり着込んで防寒する。
「優希、待たせた。帰ろう。」
穏やかに微笑み返してくれたことに内心ホッとする。何かに酷く落ち込んでいたけれど、浮上できたということなのか。気になってしまうけれど、あまりしつこく聞くのもよくない気がした。優希にだって話したくないことの一つや二つはあるだろう。今朝の泣き顔をなかったことにしたいという空気を感じ取った和希は、優希に問いたださないことにした。
すっかり暗くなってしまった冬の夜道を、ライトを頼りにゆっくり漕ぐ。急いで漕げば、二人の間にある見えない大事な何かを振り落としてしまう気がして、ゆっくりゆっくり足を動かした。それでも片道五分の道程はあっという間で、坂道を下り切った時には妙な虚脱感を覚える。その理由がすぐにはわからず、優希が自転車の後ろから降りて玄関の扉の向こうへ先に消えた瞬間、はっきりとその訳を知る。
帰り道、優希は一度も和希の背中に身を預けてくることはなかった。どおりで身体が凍えるはずだ。
優希との間にできたこの隙間は何を意味するのか。漠然とした不安だけが和希の胸を締め付ける。単なる気紛れを願い、和希は早々にこの違和感に蓋をした。
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