*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。
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駄目なのは最初からわかっている。けれど理性で理解していても、心がそこに伴うかは別問題なのだと思い知った。
兄弟でもない。男でもない。それだけで彼女たちは和希の隣りを堂々と陣取る。盗られた気分がしてしまう自分は、きっとどこか歪んでしまっているのだ。これ以上想いが募り、歯車が一つ狂えば、たちまち心ごと壊れてバラバラになってしまう。このまま頑張り続けることができるだろうか。
優希は棚の所定の位置へ一冊ずつ本を差し込んでいく。慎重に、そして丁寧に、溢れてしまいそうになる想いを仕舞い込んでいくように。最後の一冊を戻し終わって、そっと溜息をついた。
「優希、今日は元気ないね。」
大内が背後から声を掛けてきて、優希の肩にそっと手を置いた。和希と同じような背格好の大内は、一緒にいると落ち着く。性格も穏やかで雰囲気も柔らかい。一つ年が上なだけなのに、こんなにも違うものなのかと自分と比べて思ってしまう。
「少し休憩しよ。」
頬に触れた熱い塊はココアの缶だった。差し出されて戸惑っていると強引に握らされる。そしてそのまま背中を押され、カウンターの方へと促された。
あと三十分も経てば下校時刻になる。そんな図書室に他の生徒の姿はなかった。自習室は別に設けられているため、あまりここには生徒が寄り付かない。本好きな図書委員たちの憩いの場なのだ。
「弟くんと喧嘩でもした?」
そっと壊れ物を触るように、大内の指が優希の目元をなぞった。
力なく首を振ると、大内が口を開きかけて閉じる。そして優希の方に視線を据えたまま、しばらく黙り込んで何か考え込んだ。精査して彼が選んで発した言葉に心臓が止まりそうになる。
「和希くんの事が好きなんだろ?」
そんなに自分は露骨だったかと思い、嫌な汗が身体中から湧いてくる感覚がする。咄嗟に切り返せなかったことが、肯定しているも同然だ。狼狽えて上手い言い訳すら見つけられない自分は何て愚かだろう。
「ごめん、そうじゃなくて・・・。そんな怯えないで、優希。俺、自分が男しか恋愛対象にならないから何となくそういうのには聡くて。困らせるつもりはなかったんだ。ごめん。」
衝撃的なカミングアウトをされて、そっちに目が点になる。
「ちなみに優希に対してどうこう思ってるわけじゃないから安心して? 俺にも趣味ってもんがあるから。」
慌てておどけたふりをしてくれる大内の優しさに、ずっと一日張り詰めていた全身の力が一気に抜けた。優希が笑うと、大内もつられて小さく笑う。
「違うなら、ちゃんと否定しろよ?」
優希はもう迷うことはせず頷き返し、カウンターの背後にあるホワイトボードのペンを取る。
《和希が好き》
ホワイトボードの隅に小さく書いて、大内に見せる。書いてみると自分の気持ちはなんてシンプルだろうと思う。大内が頷いたので、跡形もなく文字を消す。
「随分、無謀な恋をしたんだな。」
大内の言う通りだったので肩を竦めて肯定した。
「優希、毎日泣く気?」
それは嫌だなと思いつつ、そうなりそうな予感に溜息しか出ない。
「話くらい聞くよ? 誰にも言えないのは辛いだろ? 俺も同じようなものだからさ。わかってあげられることも多いと思うし。」
弱くて臆病な自分は今、きっと相当情けない顔をしているだろう。けれど大内に醜態を晒しても尚、縋り付けるものなら何でも縋り付きたかった。
大内がこちらに手を伸ばしてきて、そっと優希の左手を取った。その手の温もりは、熱いくらいに感じたココアより、心の奥底から優希を温めてくれた。
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