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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて20」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて20」

夢を見ていた。探しても探しても大切なものが見つからない夢を。

お気に入りの赤の靴が片方だけ落ちていて、幼心に不吉な予感を抱かせた。見つからなかったらどうしよう。何か怖い目にあっていたらどうしよう。彼は小さくて人一倍怖がりなのに。

生い茂る草木を掻き分け、必死に探した。身体が小さいし身軽だからどこへでも身を隠せる。どうか無事な姿を見せて。何事もなかったように。あどけない、少し得意げなその顔を見せて。どうかお願いだから。

夕暮れを超え、闇が全てを覆い尽くすまで、残り僅かしかない。焦りで嫌な汗が全身を包み、呼ぶ声も枯れてきてしまった。しかし、ふと視界に入ってきた影を凝視して、息が止まりそうになる。

大きな影が蹲り、小さな影をねじ伏せている。その小さな影が、自分のよく知るものだとわかった瞬間、和希は無我夢中で叫んだ。






 

 

怖い夢を見ていたのに、浮上し始めた意識は不思議と不快ではない。

「・・・き・・・ず、き・・・かずき・・・」

遠くで誰かが自分を呼ぶ声がする。どこか懐かしいような気がするのに、誰のものなのかがわからない。頼りなさげに囁くような声で和希の名を呼び続ける。

「かず、き・・・おきて・・・かずき・・・」

落ち着いた声音なのに、言い方が舌ったらずでなんだか可愛い。そしてこの話し方は幼い頃の優希に似ているのだ、と懐かしさを覚えたわけに思い至る。

その切なげな声に、大丈夫、起きているよと声を掛けてやりたいのに、身体が重く力が湧いてくれなかった。

「ほら、優希。寝てるんだから、起こさないのよ。」

こちらは間違えなく母の声だ。それに抗うように和希の名を呼ぶのは、やはり優希なのだろうか。

なんとか重く閉じた瞼を抉じ開けると、こちらを覗き込んでいた優希は大きな瞳をさらに見開いて、彼の瞳が潤む。

「かず、きッ」

優希が目に見えて安堵したような顔をして、掠れた声で叫ぶ。彼の嬉しそうな声を愛おしく思って、次の瞬間ハッとする。

「優希、声・・・。」

和希の問いに一度恥ずかしそうに俯き、苦笑いをして顔を上げた。大丈夫かと念を押して聞かれ、ようやく自分が倒れたことを思い出す。

「迷惑かけて悪かったよ。母さんも、ごめん。」

「まったく、倒れるまで無理するなんて。インフルエンザらしいから、今日は様子を見て入院。問題なければ明日退院よ。」

「わかった。」

辺りを見回すと病室だった。ベッドの上で仰向けになり、点滴を打つ姿は完全に病人だ。部屋の壁に掛けられた時計を見ると、午後五時半を回ろうとしている。診療所で認識していたのは午後四時前だから、かれこれ一時間は意識が遠のいていたことになる。

「ほら、優希。もういい加減ここ出ないと、病院の人にも迷惑かかるわよ。」

和希が目覚める前にもすでに何度か母に急かされたのかもしれない。優希が少し怒ったように母を振り返って抗議の目を向ける。そして縋るように和希の方を見た。何かを訴えようとしているようなのだが、回らない頭では上手く意図が汲み取れない。

「優希、何か話したいことでもあるの?」

そう聞けば神妙な面持ちで頷き返してくる。

「明日、退院したら聞くよ。」

今話したかったのだろう。少し落胆した顔が返ってくる。けれど最後は諦めたようで、小さく手を振って病室を出ていった。その手の振り方が小さい頃のものと同じで、温かい気持ちになる。和希は静かになった病室で火照る身体にまどろみを感じて、落ちてきた瞼をそのままに、再び眠りの世界へ落ちていった。










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