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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて19」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて19」

背中に纏わり付いてくる熱さが怖くなる。自転車を漕いで五分もかからない道程が、とても長く感じられた。

今朝から具合は悪そうだった。休んだらどうかと、何故気に掛けてあげられなかったんだろう。変な意地を張っていた自分を悔やむ。

和希の身体は熱く、顔も上気していて本当に辛そうだ。神谷医院の前で自転車を停めた時には、和希は後ろでぐったりしていて立っているのも辛そうだった。

金曜日の午後、診療所は人で溢れかえっていた。こんなに病人がひしめき合っていると、ここにいる方が具合を悪くするんじゃなかろうかと思ってしまう。受付で二人分のマスクを受け取り、和希に渡す。

座るスペースもほとんどなかったので、具合の悪い和希だけ空いていた丸椅子に座らせる。元気な自分が患者の席を奪ってはいけない。優希自身は風邪を貰ってしまうことも考え、呼ばれるまで外で待つことにした。

和希が弱っているのを見るのは久しぶりだった。風邪を引きやすいのも、怪我をしてすぐ泣くのも、小さい頃から優希の方だったからだ。和希の元気がないと不安になる。慣れていないのだ。活発で威勢が良く、優希をそこかしこへと引っ張り出してくれる。弱くて守られているのは自分の専売特許みたいなものだと、どこか勝手に思い込んでいたことを恥じる。

和希だって風邪くらい引くし、落ち込むことだってあるだろう。後者に関しては意図的に見せないようにしているだけで、そこが和希の強さであり勇ましい所以なのだ。

具合が悪かったのに、自転車だけ託して一人で帰ろうとしたのは、きっと自分の所為だ。よそよそしくして避けていることをわかっていたから遠慮させてしまった。

好きな人を嫌な気分にさせるなんて、自分は本当に馬鹿だ。自分が苦しみたくないから逃げをうって、挙句に気を遣わせるなんて。どこまで自分勝手だったんだろうと悔いる。

全て吐き出してしまえば、あるいは納得してもらえるだろうか。あり得ないと両断されるだろうか。兄弟を好きだなんて気味悪がられるだろうか。そこまで考えて、やっぱり言えそうにはないと尻込みする。

白い息を空に向かって量産する。溜息の数だけ幸せが逃げるのだとしても、心に溜まっていく澱をそれ以外に放出させる術が見当たらない。そして空に顔を向けていれば、目を潤ませるものが零れ落ちずに済んだ。

かじかむ身体もそのままに、じっと外の冷気に身体を馴染ませていると、その静寂を打ち破って、診療所の中が急に慌ただしくなった。そして扉が勢いよく開けられて、看護師が飛び出してくる。

「沢田さん! 弟さんが中で倒れて、今から大学病院の方に救急搬送するから、そばにいてくれる?」

突然飛び込んできた言葉に一瞬、理解ができず、目を瞬く。しかし中から看護師と事務員に抱えられて出てきた顔面蒼白な和希を見て、事態をようやく把握する。

「ッ・・・」

暫し思考が停止して呆然としていると、急かされて用意された車に乗り込んだ。

後部座席に横たわる和希は荒い息を繰り返しいる。その様を現実感を持ってみることができず、縋るようにハンドルを握る院長の奥さんを見遣る。

「意識はあるから、そんな顔しなくて大丈夫。今からうちと提携してる近くの大学病院へ運ぶからね。すぐに診てもらえるから。救急車呼ぶより直接行った方が早いから、そうするわよ?」
意識があるというけれど、腕を掴んでみてもぐったりしたままで、反応らしき反応がない。心臓がけたたましく打ち始めて嫌な汗が手に滲む。

和希の名を叫びたいのに、声にならないもどかしさ。病院に着くまで、ずっと心の声でその名を呼び続けた。











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