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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて2」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて2」

夕飯作りは沢田家では和希の仕事だ。共働きの両親は帰りが遅い。食べ盛りの高校生二人が両親の帰りを待っていられるはずもなく、自然な流れで作るようになった。初めの頃は二人で作っていたが、手先の器用な和希がその大半を担うようになり、今では完全に和希の仕事だ。和希が夕飯の支度をしている間、他の家事を優希がしている。

「優希、テーブルの片付けお願い。あと、これで拭いておいて。」

台布巾を濡らして固く絞り、優希に手渡す。優希はいつも通り黙って頷いて布巾を受け取った。

優希は声が出ない。生まれた時から話せなかったわけではなく、ある事件がきっかけで失語症になった。

九つになった夏。近所の子どもたちで集まり、公園でかくれんぼをした。鬼から隠れるために必死になっていたことが懐かしい。しかし二人にとって、とりわけ優希に関して、かくれんぼは恐怖の記憶となって残っていることだろう。

近所で一番広い公園で優希は殺人未遂の被害にあった。息を潜めて植木の茂みに隠れていたところ、背後から男に口を塞がれ暴行にあったうえ、和希たちが気付くのにあと一歩遅れていたら絞殺されるところだった。

公園の近所に住む子ども嫌いの男の仕業で、以前から近隣住民の子どもを怒鳴り散らすなどトラブルの絶えない住人だった。優希の事件をきっかけに逮捕されることとなったが、事件が終結をみたからといって優希の心の傷が癒えるわけではない。

意識を失い青ざめた顔が、今も和希の頭には残っている。目覚めないかと思った。死んでしまうのではないかと思った。優希は事件の後、夜な夜なうなされ、和希と共でないと寝られないと言って泣いた。外出しても片時も傍を離れなくなった。しかし一年も経った頃、表立って取り乱すことはなくなり、優希は平静を取り戻した。それでも、声だけはどうしても戻らなかった。

守ってあげたかった。年月を重ねても、優希はいつも自分より小柄で弱いように思えた。そしてそれは事実でもあった。彼女ができても、自分の最優先事項は優希で、それ以上のものは未だかつて現れてはいない。

しかし最近優希が見せる困った顔に戸惑うこともある。よかれと思って差し出した手を、彼は時々寂しそうな顔で見る。双子であるが故なのか、優希のして欲しいことが手に取るようにわかるから先回りしてしまうが、悲しそうに笑うので、するべきではなかったかもしれないと後悔の念を抱くことも少なくない。

もう優希だって、か弱いだけの幼子ではない。自分たちは大人になっていこうとしていて、事実、和希が手を伸ばさなくてもできることがほとんどなのだ。彼のプライドを傷付けているのかもしれない。そう思うと、そろそろ距離を置かなくてはいけない時期に来ているのかもしれないと思う。

ずっと一緒ではない。いつか優希にだって彼女ができて、家庭を持つかもしれない。人の親になるのかもしれない。だからもう、過保護な弟から卒業して、普通の弟になるべきなのだ。そう思うと、何故か寂しく思う自分がいる。

「優希、食べよっか。」

見上げてくる大きな瞳はまだ少し幼さが残る。その目で射抜かれると庇護欲を掻き立てられるが、そう感じる自分を叱咤する。

鶏肉をメインにしてチリペッパーとクミン、パプリカパウダーを混ぜたご飯、野菜スープにサラダを添えると華やかな食卓になった。テーブルに並べて優希と二人、手を合わせる。あっという間に目の前から食べ物が去っていく自分と違い、ゆっくり味わってマイペースに食事をする優希。 美味しいよ、と声を発しないで口を形作った優希に微笑み返す。和希もお喋りではないので静かな食卓だが、そこに気不味さはない。

「雑誌のレシピ見ながら作ってみたんだけど、また作ろうか?」

嬉しそうに優希が頷くので、和希もつられて頬が緩む。一所懸命作ったものを喜んでくれるのは素直に嬉しい。自分はこの笑顔が見たくて頑張るのだ。

「そういえば、物理の宿題でわからないところがあってさ。後で教えて?」

快く頷いてくれた優希に、悪いな、と言えば、小さく首を振った。優希は成績がずば抜けていい。和希も悪い方ではないけれど、優希のそれには遠く及ばない。コツコツと勉強に勤しむ優希には頭が上がらないのだ。

「俺たちってさ、足して割れば完璧だよな?」

ちょっと誇らしげに言ってみると、何言ってんだかと少し呆れたような顔が返ってきたので、可笑しくなって笑う。優希もつられるように笑い出し、今日も変わらず穏やかな夕餉の時間を二人で楽しんだ。








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