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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

沢田家の双子「近すぎて遠すぎて17」

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沢田家の双子「近すぎて遠すぎて17」

今まで逃げてきたことに、少しずつ向き合うことにしたのは、先が見えない不安と自立した未来を望む自分がいるから。

人生のほとんどを和希に頼り、その和希から離れて今度は大内に頼り、何一つ満足に自分の力でできないことが不甲斐ない。いつまでも人に寄り掛かる人生は、自分の人生だと胸を張って言えないだろう。

「ゆっくりケアしていきましょう。昨日今日の訓練ですぐに成果が出ないからと言って、焦ることはないですから。」

失語症の原因は強いストレスに起因することも多い。優希の場合、発端は殺人未遂事件だった。しかし声が戻らなかったのは、メンタルケアを疎かにしたばかりでなく、和希が常に傍でサポートしてくれていたおかげで、話せなくても生活に支障をきたすことが差し迫ってなかったということもかえって悪影響だったのだ。

「一概にこれが原因とは言えませんが、今話せない原因は過去の精神的ストレスというよりも、長く話してこなかった後遺症と考えた方がいいかもしれません。先ほどやったように声を出す訓練を毎日少しずつしていきましょう。練習する時は誰かと一緒でも一人でしても構いません。自分にとってストレスがないと感じる方を選んで下さい。また来月に予約を取っておきますから、一緒に頑張っていきましょう。」

先生の言葉に頷き返して、ハッとする。そして掠れた声で返事をしなおした。

日々の生活の中で、声を出さないで過ごす術だけ身に付けてしまって、積極的に声を発する努力をしてこなかった。それがこうやって習慣の端々に滲み出てしまっている。

先生に苦笑いをすると、明るい笑顔で首を横に振り、少しずつでいいんですよ、と返ってきて安堵する。優希はつくづく人に恵まれていることに感謝しつつ、恋愛にうつつを抜かしている場合ではなかったのだと、少しばかり反省した。

家までの帰り道、漠然としていた未来に少しだけ光を見い出せそうな気配を感じて空を仰ぐ。話せるようになれば仕事だってちゃんとできる。勉強は頑張ってきたのだから、幸い選択肢も多い。

子どもの頃から医者に憧れていた。注射が怖くて泣き喚く自分に真摯に向き合ってくれた、おじいちゃんの先生。近所に開業していた白髪混じりの優しいあの先生は、もう随分前に亡くなってしまった。泣かないで診察を終えられた時は、かっこいいねと褒めてくれた。誰からも、可愛いね、としか言ってもらえなかった自分にとっては新鮮な響きで、その日一日中、自慢気でいたものだった。

病院を怖がる子どもは多い。だからこそ、どんな子どもにも慕ってもらえる、あの先生のようになれたら、という思いがずっと胸にあった。ずっと息を潜めていたその夢が、今心に蘇ってくる。その夢は優希に新しい希望を与え始めていた。











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