和希が何か言いたげにこちらを見てくる。ここ数日、夕飯の空気が何処となく重い。今も視線は感じるのに一向に話し掛けてくる気配はなかった。口を開きかけて閉じるのを繰り返している。何かを躊躇う様に耐えられなくなり、和希に目で問い掛けた。
「いや、あのさ・・・。」
歯切れが悪いのは和希らしくない。だから相当言い難いことなのだと察しがいく。
「バスケ部の先輩たちから変な話、聞かされて。優希と・・・大内先輩が付き合ってるんじゃないか、って・・・。」
不覚にも、ぴくりと肩が揺れてしまう。何故そんな話が出てくるのか、思い当たる節が多過ぎて反応せずにはいられなかった。元々、隠し事をするのは苦手だ。自分は今、和希の前でどんな顔を晒しているんだろう。
「笑えるよな。ただ、仲が良いだけだろ?」
和希が馬鹿馬鹿しいと苦笑してくれている間に頷いてしまえば、それで終わる。けれどいつまでも頷かない自分に和希が笑うのをやめて、顔を強張らせた。
「優希・・・?」
付き合ってるわけじゃない。大内は慰めてくれただけ。誰でも良かった、は言い過ぎだが、自分を優しく包み込んでくれる大内に抱かれ、満たされた自分。この先、女の子と関係が持てる気は全くしなかった。どうせ和希に想いを告げられないのなら、いっそ誤解されても構わないじゃないかという気になってくる。
何も反応を示さない優希に、和希が痺れを切らして問うてくる。
「まさか・・・本当に付き合ってるの?」
和希の問いには答えず、俯いて黙々と目の前の夕飯を口に詰め込んでいく。その様子を和希が呆然と見つめていたのはわかっていたが、ご馳走様の代わりに胸の前で手を合わせて席を立つ。
和希はショックを受けた顔をしていた。でも申し訳ないという気持ちにはならなかった。自分が和希のことで想い募らせた分だけ、和希も自分のことで思い悩んでくれればいいのにと身勝手なことを考える。
明日、大内に謝らなければいけない。自分が弱いばかりに、慰めてくれていたところを誰かに見られてしまったんだろう。けれど一度立った噂に蓋はできない。そういう話が出回っていることだけでも早く伝えておかなければならないな、とスマートフォンを握る。
自室に籠もって、窓ガラスに映る自分を見る。疲れた顔をしているな、と我ながら思って、そっと肩を落とした。
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