年が明けて早々、彼女とは別れた。散々泣かれて食い下がられたが、謝り続けてなんとか収めた。気持ちがない以上、付き合ってもお互い時間の無駄だ。無神経なことをしていたんだと気付く。今度はちゃんと好きになった人と付き合おうと当たり前のことを思った。
「別れちゃったんだろ?勿体ないな、おまえ。今野、可愛いじゃん。」
「可愛いと思うのと、好きなのは別なんだって、ようやく気付いたっていうか・・・。」
「うわぁ、モテる奴は言うことが違うよ。嫌味かよ。」
「先輩だって毎度同じ様なこと、やってるじゃないですか。」
「おまえとは次元が違うから。今野だったら、勿体なくて別れられない。」
「なんですか、それ・・・。」
部活中、男子が集まってする会話なんて碌な話はない。女の子たちが聞いたら幻滅する類いの話ばかりだろう。
「そういえばさ、俺ちょっと噂で聞いたんだけど・・・。」
「あ、もしかして、大内とこいつの兄貴の話?俺も聞いた!」
「何ですか?」
優希と大内に何の噂話があるのか、気になって思わず食い付く。
「デキてるってやつ。」
「は?」
「なんだ、和希。聞いた事なかった? 真相聞いてやろうかと思ってたのに。」
「うちのクラスの女子も騒いでてさ。大内のやつ、結構モテるくせに、優希ちゃんとばっかつるんでるからじゃね?」
「というか大内の場合、昔からそっちなんじゃないか、って噂はあったけどな。告られても誰とも付き合わねぇんだもん。」
そんな話は初耳だ。しかし静かに玄関先で微笑み合っていた二人を思い出し、嫌な気分になる。
「でも・・・大内先輩、優しいだけだと思うけど。優希、口がきけないしさ・・・。」
やんわりと否定すると、先輩が身を乗り出して面白そうに話を被せてくる。
「だけど、図書室で抱き合ってる二人、見たってやつもいるんだぜ?」
「だけどあの二人だと、ちょっと洒落にならないよなぁ。」
抱き合う二人を容易に想像してしまって、頭の中で何かがふつりと切れた。
「そんなの、作り話に決まってるッ!」
先輩たちが和希の剣幕にポカンと口を開ける。何故自分でもこんなに苛つくのかわからなくて、声を荒げた自分に戸惑う。
「そんな怒るなって。悪かったよ。言い方も良くなかった。たださ、そういう噂が流れてるっていうのはホント。」
「案外聞いてみたら、当人たちに笑われて終わりだろ。」
そんな風に窘められても、頭の中に一度描いてしまった二人は消えなかった。優希が大内に向ける眼差しも、大内が優希を見つめる目も、そんな空気と言われれば頷きたくもなった。そしてそれを強烈に許せないと思う自分がいる。
男同士だからとか、そういうことは全く頭にはなかった。ただ、自分の大切なものを捥ぎ盗られたような喪失感。何でも分かち合えていたと思っていたのに、そう思っていたのは自分だけだったのか。
考えてみれば、それを裏付けるような事実が最近多過ぎる。急によそよそしくなった優希。一緒に帰らないと言い出したと思ったら、放課後は大内と過ごしているらしい。滅多に出掛けることもなかったのに、ここのところ休みのたびに大内の家にお邪魔している。同級生ならまだしも、後輩を可愛がってくれるにしては会う頻度が多い気もする。
もしかしたら、と思い始めたら思考が止まらなくなる。本当に付き合っているのかもしれない。優希は・・・大内のことが、好き?
先輩たちが吹き込んでくれた噂話が終始頭から離れなくなり、その日の練習は全く身にならなかった。
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朝霧とおる
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