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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

水の記憶4

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水の記憶4

与えられた部屋で、凛は幾度目かわからない溜息をつく。しかし深刻な悩みを抱えているわけではなく、己の好奇心が満たされない事を憂いてのこと。少し子どもじみた願望だということは自覚していた。

「紫苑様……ご存じのはずなのに、意地悪です……。」

青のガラス瓶を時折視界に入れて、一日の大半が好奇心で埋め尽くされていく。開けてはいけないと言われれば、どうしても開けたくなるのが心情だ。

紫苑とは飾るだけという約束をした。しかし世話役の一人が毒の有無を調べたのだから、開けることを阻まれる意味がわからない。紫苑に腹を立て、ガラス瓶を見つめることの繰り返しだった。

「綺麗な青……。紫苑様のお召し物より明るい。」

手の中にある薬箱に嵌められた石の色と似ている。紫苑のために選んだ物。初めての買い物にしては上出来だ。しかし王都への散策と引き換えに、紫苑は持ち越した公務に追われている。

かねてより願っていたことが叶ったことは素直に嬉しい。一方でここ二日ほど、紫苑と碌に話も出来ずじまいで寂しさが募る。構ってもらえないことが一番堪えているのだ。だから気に掛かるガラス瓶からも余計に目が離せない。目の前に紫苑がいてくれれば忘れてしまえるほどの好奇心。

しかしついには胸がいっぱいになって、興味を惹かれるまま青いガラス瓶を置いた飾り棚の前に立った。

「少しだけ……。」

水の記憶を辿ってみたいという欲求。紫苑がそばにいない退屈な時間を埋めてくれるかもしれない。暇を持て余し過ぎて、凛の警戒心は薄れていた。

毎日磨かれる銀製の大きな盆。丸みのある底をめがけて、手に取ったガラス瓶から水を注ぎ入れる。水鏡に映った自分の姿を見つめると、つい嬉しくなって笑みを溢した。

裾を捲り上げて指でそっと水面を弾くと、小さな衝撃で手の先が痺れる。銀の盆も凛に呼応して微かに震えを生じた。

「ッ!」

踊った水面が凪いでいくまで不安な面持ちで見つめ、凛はこのまま手を差し入れるかどうか迷う。凛の周囲からすべての危険を取り除こうとする紫苑のことだ。彼に見つかったら叱られるだろう。しかし落ち着きを取り戻した水面を暫く見つめていると、凛の鼻を腐臭が刺激始める。

「死の匂い……。」

水が携えてきた記憶が恐ろしいものであったとしても、受け止めて癒したい。己に宿る力をもってすれば、それはいとも簡単に叶うのだ。星の宮が持つ本能に凛は突き動かされる。

生きとし生けるものの苦しみを癒すことが己の本分。そこから逃れようというのなら、己の存在意義がなくなってしまう。

紫苑と暮らすぬるま湯の王宮で、凛は課せられた役割を忘れかけていた。ようやく目覚めた本能に抗おうとは思わない。遊びではなく、これは務めだと身体が叫んでいる。

「水の使者よ、お教えください……。」

身体を貫くであろう衝撃を覚悟し、凛は唇を固く結んで意を決する。両手を水に差し入れた途端、眼前で強烈な光が放たれた。凛の視界が白一色に変化した後、走馬灯のように水の記憶が駆け巡って意識を手放した。









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