シノヤマの別れが受け入れ難いため、本編に沿った独白とは別に、学パロで補完していくことにしました。
これから先、何人かキャラ崩壊の恐れがあるので、何でもありが許せる方だけ、お付き合いいただけると有難いです。
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小さく舟を漕いでいた頭が、重力に負けて唯一の支えだった手から滑り落ちる。静かだった教室に大きな音が響いて、黒板に向けられていた多くの視線が一斉にこちらを向く。正確にはヤマギの前に座る、顔面を机に打ち付けたシノの方へ意識が集中した。
「ノルバ・シノくん。」
「……んあ?」
「目覚まし代わりに、教科書の続きを読んでくれるかしら。」
呆れた声でメリビット先生がシノを流し見る。そして教室では小さな笑い声がそこかしこで湧いて、シノは大仰に肩を竦め、机の中を漁り始める。彼は教科書を出すことすらしていなかったらしい。
何を考えているのかすぐにわかる、表裏のないシノの背中。笑いの的になっているというのに全く恥ずかしがる様子もなく、彼は躊躇いもなくヤマギの方を振り返った。
「ヤマギ。今、どこやってんの?」
突然顔を覗き込まれて一瞬硬直した後、ヤマギは手元の教科書を見て小声で告げる。
「……48ページ。」
皆の意識はこちらに集まっているから、声を潜めることに意味はないけれど、あっけらかんとしたシノとは違い、注目されることに耐性のない自分にはハードルが高い。
「サンキュ!」
向けられたシノの笑顔に、つい不覚にも顔を熱くして、ヤマギは教科書で顔を覆う。彼にとっては何てことない、皆に振り撒いている笑顔だろうけれど、ヤマギにとってはずっと特別な意味のある顔だ。たった一言、感謝の言葉を貰えただけで、真面目に授業を受けていて良かったと思えるくらいには心奪われている。
大きな背中がヤマギの前で立ち上がる。自分とは似ても似つかない肩幅。広い背中は逞しさと包容力を感じさせて、つい手を伸ばしたくなる。誰にでも優しい彼は、特別な存在を作りたがらない。だからこそ独り占めしたいという欲求はヤマギの身体中から芽を出して、飽きることなく来る日も来る日もシノの背中に念力を飛ばす。
シノに熱い視線を送るのは自分だけじゃない。友情、恋情が入り混じる多くの視線に慣れているシノは、ヤマギの注ぎ続ける眼力では到底振り向いてくれないかもしれない。すると自分の中で今まで以上の独占欲が湧いてきて、次はどんな手を打とうかと考え始める。
好きな人の気を惹くためなら多少姑息な事を試みようとしてしまう自分と、太陽のように明るいシノには潔く勝負したいと息巻く自分とが常に喧嘩をする。しかし今日はシノの笑顔に満足して、良心に軍配を上げることにした。
ヤマギが大好きな背中に見惚れている間、シノは読み終えたらしい。再びニカッと笑みを浮かべて振り返ってきたシノに、ヤマギの心臓は激しく乱れる。
「ッ!!」
シノの手が小さな子どもを褒めるようにヤマギの頭を撫で回す。大きな温かい手に触れられる心地良さ。呆然と見上げていると彼の顔が近付いてくる。
「そんな見んなよ。カッコ良くて、惚れた?」
耳元で揶揄うように囁いてきたシノに、ヤマギは掴んでいた教科書を危うく落としそうになる。
彼の背中ばかり見つめていたことがバレていたなんて恥ずかしい。脳が焼けるような猛烈な羞恥心にヤマギは唇を固く結んでそっぽを向く。
「……気のせい。」
「そうかぁ?」
「バカじゃないの!?」
小声で反駁していると、メリビット先生の冷めた声が飛んでくる。
「ノルバ・シノくん。前を向きましょうね。」
「うぃっす!」
反省の欠片もないシノの返事に、教室でどっと笑いが起こる。しかしヤマギは一人、教科書に顔を伏せながら顔の熱を冷ますのに躍起になった。