黒い靄を紫苑の中から追い出したい。
凛は身体の中に溜め込んだ熱で溶かそうと幾度も癒しの息吹を送り込む。
しかしなかなかに強固な靄は散り散りになってはへばりつくことを繰り返して、容易に事を進めることができない。つまりそれだけ甘美な夢に紫苑が囚われていることを意味する。
一体どんな夢を見ているのだろう。
自分のもとへと戻ること以上に、その夢は魅力的なのだろうかと夢の使者が恨めしく思えた。
『紫苑様・・・紫苑様・・・』
呼んでも呼んでも紫苑の中に巣食う闇が消えてくれない。凛は悩んだ挙句、紫苑の中心で俄かに息づいていた象徴を手で包みこんでみた。意識のない紫苑に悪戯をしている気分で落ち着かない。けれど今生へ戻ってきてもらうためだと言い聞かせて、彼の中に未だ巣食う黒い影を凝視しながら、手探りで紫苑を刺激してみた。
すると紫苑の身体が震える。そして黒い靄がゴポッという気味の悪い音を立てて分裂し、幾つか凛の目の前で消えていった。
『紫苑様!』
こうやって直に触れることは効果があるのだとわかり、凛は羞恥心を仕舞い込んで紫苑に触れ続ける。
依然として凛は目を閉じたまま紫苑の意識に集中しているので、幸いにも触れている事実から少し目をそらすことができる。しかし手の中で紫苑が猛々しく脈動するたびに、身体の奥が疼くようで、凛は堪らない気持ちになる。
もどかしさを抱えながらも紫苑に触れ続けると、轟音を立てて影が泡立ち、瞬く間に消えていく。
あともう少しで闇が消え失せると思った瞬間、紫苑の腕が凛を抱き、その衝撃で凛はいっきに紫苑の意識から跳ね飛ばされた。
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朝霧とおる