ちゃぷんと何かが弾ける音がして、すぐに水音だと気付く。
重い瞼をなんとか開くと、紫苑に抱かれて湯の中に身を浸していた。
温かく穏やかな時間に、再びうっとりと目を閉じて紫苑の胸に身体を預ける。
「凛」
大切な人が自分の名を呼ぶ。紫苑はとても強い人だと知っているけれど、とても寂しがり屋だということも同じくらい凛は知っていた。
だからこの人が自分を失うのではないかと常に不安を抱いて過ごしていることを悲しく思う。
どこへも逃げたりしないのに。
凛の戻る場所はいつだってこの人の腕の中だ。激しく求めてくる時は、寂しさや不安が紫苑の心を苛んだ時だ。そういう時は決して拒まず、身を任せると決めている。そうすることで紫苑は安堵して、また少し凛に自由を許してくれるようになる。
凛は紫苑のことをとても大切な人だと思う一方で、閉じ込めておきたいとは思わない。物理的な距離は寂しさを誘うけれど、帰りを待ち、心をときめかせることも楽しい時間だ。
しかし紫苑は待つことを極端に嫌う。凛がどこかへ行こうと試みれば、あれこれ理由をつけて、決して一人にさせてはくれない。
「紫苑様」
「凛、目覚めていたのか?」
たくさん啼いた所為でかすれた声しか出なかったが、どうにか言葉は紡げそうだ。
「今度、二人で街へ参りましょう。」
「・・・。」
「二人ならいいでしょう?」
「・・・。」
背後から降ってきたのは溜息だった。しかし重苦しいものではなく、仕方ない、願いを聞いてやるかという溜息だ。
「そばを離れないと約束しなさい。街は危険だらけだ。」
「約束致します。」
「・・・仕方ない。一度だけだぞ?」
「はい。」
満面の笑みで頷けば、紫苑が目尻を下げて見下ろしてくる。
どうやらおねだりは成功したようだった。紫苑の気が変わらぬうちに、早々に計画を練ろう。侍女たちから話を聞いて、やってみたいことがたくさんあった。
紫苑が外の世界から自分を隔離しようと試みても、実際は王宮内に多くの綻びがある。魅惑的な外の世界の話は、絶えることなく凛の耳には幼い頃から届いていた。
「紫苑様、大好きです。」
「凛・・・どうやら、そなたが一枚上手のようだな。」
温かい湯が冷めないうちに、二人で湯浴みを終える。綺麗な衣で身を包んで、再び二人で寝台へ戻る。
すっかり疲労を纏った身体を沈めて、広い胸に抱かれて眠りにつく。
凛の心は夢の使者が入り込む隙などないほど、それはそれは甘く優しい夢に包まれていた。
いつもありがとうございます!!
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朝霧とおる
1. 無題
ファンタジーならではのドキドキわくわくを堪能しました!とても面白かったですo(^o^)o
紫苑と凜のいちゃいちゃも、紫苑の不安な気持ちを織り混ぜながら、これからも続いてゆくのでしょうね~
甲斐たちの時のように終わりは寂しいですけど、終わりがあれば始まりもあるということで、新連載も楽しく読ませていただきますね♪
どんどん寒くなりますね。風邪など召しませんよう、お気をつけ下さいませ。
今夜も楽しみにしております(*´∀`)♪
Re:無題
ファンタジーは現実に有り得ない事をたくさん盛り込めるので、楽しんで書かせていただきました。
城下へ行ってみたい、という凛のおねだりで終わりましたので、次回春にご用意するお話はそちらのドタバタ話になる予定です。
凛の無邪気さと、紫苑の大人げない溺愛っぷりをまたお届けできればな~と思っています。
新連載は完全に私の息抜き作品になってしまっていますが、少しでもお楽しみいただけたら幸いです。
また、よろしくお願いします!!