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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あまのがわ喫茶室2

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あまのがわ喫茶室2

涼介は大変マメな幼馴染だ。結弦のことを何かと気にかけ、世話をしてくれる。父が仕事でなかなか休みも取れなかったから、アパート探しも涼介が手伝ってくれた。

結弦は今年の春、無事大学へ進学することになった。二年前に実家を出て物理的な距離では疎遠になっていた涼介と、再び同じ街で暮らすことになる。大学は違うがあえて一駅離れたところにアパートを選んだのは、涼介といれば心細くないという気持ちがあったから。面倒見の良い涼介と一緒なら、住み慣れない街であっても困らないという打算が少なからずある。

涼介とルームシェアしたいという意見は父と涼介の両方から却下されてしまったため叶わなかったが、極力近い距離で探して、駅をまたいで徒歩五分という立地のアパートに落ち着いた。築十年に満たないアパートは学生が住むわりには家賃が高かったが、通う大学が国立だったことが幸いし、父は目を瞑ってくれた。

父が涼介と暮らすことに反対した理由は一目瞭然だ。面倒見の良い年上の涼介の迷惑になってしまうというのが全てだろう。だから反対されたのは意外ではなく至極当然の流れだと納得した。

しかし涼介が渋ったことに、結弦は実のところ何度も首を傾げていた。

涼介は自分のことを幼い頃から実の弟のように可愛がってくれている。結弦の提案に喜んで頷いてくれるものとばかり思っていたのだ。しかし、迷惑だと断言されるわけでもなく、のらりくらりとかわされて、どうしてもルームシェアに頷いてはもらえなった。

もしかして恋人でもできたのだろうか。しかしそこまで思い至ると、いつも結弦は不快感を覚える。寂しいのではない。酷く不愉快なのだ。

「涼介、忙しいのかなぁ・・・。」

今朝送ったメッセージが既読にならない。当然返信もなかった。日曜日以外は授業やアルバイトに精を出しているとはいえ、構ってもらえることが当たり前だった二年前までに思いを馳せると、どうしてもつまらなく思えてしまう。

早く涼介に会いたい。アパートに入居できるのは一週間後だ。残る行事は卒業式だけ。ようするに暇で時間を持て余しているのだ。

普段の結弦であればこういう贅沢な余暇は大好きな生物の本に捧げる。しかし受験が終わった途端、なぜか興味の方向が涼介一点になってしまい、駆け出したい気分が勝って落ち着いて好きなことに精を出せなかった。

アパート探しに付き合ってくれた涼介は、たった二年離れていた間に、とても大人びてしまった。頼もしさが増した半面、遠い存在に思えて、必死に彼の背中をついて回った。

一緒に暮らしてくれるとばかり思っていたのに。それを当然のように期待していたのが自分だけだったことが悲しい。そして何度もこの問題にぶつかってはモヤモヤする自分の気持ちも上手く咀嚼できなかった。


 * * *


涼介にとって結弦が家まで押し掛ける行為がどう考えても迷惑なことはわかりきっていたけれど、自力で会いに行けてしまう距離が、結弦に我慢を難しくさせた。

しかし涼介に連絡もせず、彼のアパートに乗り込んでしまったのは、やはり失敗だったのだ。夜九時過ぎにアパートへ帰宅した涼介は当然結弦の登場に驚き、渋い顔をした。

涼介は滅多に怒ったりしない。けれどその彼に渋い顔をさせたのだから、声こそ荒げることはなかったものの、それなりに怒らせてしまったことは容易に想像できた。

「結弦、ダメだろ? お父さんには言ってきた?」

「書置きしてきた。」

「もう、しょうがないなぁ。今日だけだよ?」

「うん。」

「ベッド使っていいよ。お風呂そっちね。」

涼介が高校を卒業するまで、よく家を行き来して、一緒のベッドで眠ったりしたから、てっきり身を寄せ合って眠るものだと思っていた。

「涼介、狭くなっちゃって、ごめんね。」

「・・・俺はソファで寝るよ。」

「一緒に寝ないの?」

「狭いだろ。」

涼介の綺麗なグレーの瞳が曇ってしまう。自分は何か不味いことを言っただろうか。二年前まで当たり前のようにしていたことが、一つひとつできなくなっていっているような気がする。結弦の心はこの時、はっきりと寂しいと訴えていた。

「一緒に寝ようよ。」

「・・・お風呂入っておいで。」

一瞬の沈黙の後、結局涼介が結弦の提案に頷くことはなく、話をそらされる。あえてはっきり嫌だと言わなかったことに、かえって大きな拒絶を感じる。涼介に会ったら、たわいない話をして、楽しい時間が過ごせると思っていた。しかし結弦の予想は外れて、涼介から望まない言葉ばかりを浴びせられる。

「涼介、怒ってる?」

「お父さんを心配させるようなことするから、少しだけね。ほら、お風呂。俺、明日も朝早いから。」

「学校?」

「そうだよ。」

「そっか。」

これ以上怒らせるのは耐えられなくて、結弦は渋々バスルームへ向かう。小さい頃はお風呂だって一緒に遊びながら入ったのに、やはり大きくなった自分には許されない甘えなのか。

結弦は小さな溜息をこぼして、涼介を怒らせてしまったことを残念に思った。










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