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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー9

自分の屁理屈で丸め込み、柚乃宮を連れ帰った土曜日。最低限、衣服と仕事用具だけバッグに詰めさせた。柚乃宮の住むマンションから多田のマンションまで、駅を挟んで徒歩十五分。必要なものがあるなら、休日取りに行かせればいい距離だ。

 絆されて懐柔されてくれればいい、という邪心が全くなかったわけではない。けれど自傷の事も、食事が適当な事も、人として本気で心配だった。

「三食、ちゃんと食べてる?」

 黙り込んだところをみれば、きちんと食事をしていないのは明白だ。

「昼はともかく。夜、俺が誘わなかった時はコンビニのお弁当とか?」

「まぁ……。」

 でも全く食べていないよりは、お弁当でもなんでも食べた方がいい。独り身の男などそんなものだろう。

しかしその後、柚乃宮の言葉に結局呆れた。

「疲れると食べる気力がなくて……最近はほとんど食べてない、かも……。」

 いい加減過ぎる食生活に溜息を吐く。疲れがピークを超えると、食べ物が喉を通りにくく感じる。それは多田にも経験があるから言いたいことはわかる。けれどそれで本当に食べなければ倒れてしまう。夜食べない分はせめて昼に食べるとか、上手くコントロールしてやらなければ、いつか身体は悲鳴を上げる。

 自己管理があまりに成っていなくて呆れた。どんな仕事にせよ、結局は身体が資本だ。それはきちんと社会人の先輩として教えてやらねばと思った。

 多田が頻繁に食事に誘っていなければ、もっと前に身体を壊していたかもしれない。若い内は回復が早い。けれどそれはきちんと定期的にケアをしていれば、という話だ。無理を続ければどんなに若くても、体力と精神力がある時突然、尽きる瞬間が必ずやってくる。

 しかし食事のことはともかく、自傷の事は多田には全く知識のないことだった。そもそも知識で解決できる問題なのかもわからない。連れ帰った先で病院に世話になる気はないのかと尋ねたが、それに対してはどうしても首を縦に振ってはくれなかった。どうせ話せないから、というのが柚乃宮の言い分だった。

 あまり言い募るのも良くない気がして、昼食を摂りがてら、スーツを買いに出た。終始二人で欠伸を噛み締めながら、その事を笑い合うくらいには、いつもの自分たちに戻りつつあった。
勢いで始まった不思議な共同生活は、案外まともに成り立った。

「多田さん、料理上手なんですね。家庭料理って久しぶりです。」

 多田も柚乃宮くらいの歳の頃は料理をしなかった。けれど外食ばかりの生活に飽きがきて、三十を過ぎた頃から時間があれば自炊するようになった。残念ながら、振る舞う相手はいなかったのだが。

「ずっと作ってもらいたいなぁ。」

「お望みならいつでも作るけど。」

 柚乃宮にとって、深い意味のない言葉なのはわかっている。それでも自分の側にいることを居心地良く感じてくれるのは嬉しい。

 柚乃宮は、多田が好きだと言ったことをどう思っているのだろう。本気で嫌なら強引に連れ込もうとしたって、こんな状況にはなっていない。でも期待していいかと言われると、それも微妙だ。つけ込まれたふりをしているだけなのではないか。ほとぼりが冷めたら去っていくのではないか。

 そんな不安はあながち外れていない気もする。多田の気持ちが一方通行なのだとしたら、見えない心の距離は、今後広がっていくだけだろう。美味しそうに手料理を頬張る想い人を見て、多田は少し苦い気分になった。

 夕飯を終えて手伝いを辞退しても、柚乃宮が手持ち無沙汰になることはなかったようだ。

 柚乃宮は一度腹を括ってしまえば慣れるのが早いタイプらしい。

 多田が終始相手をしなくても、一人好き勝手に過ごしていた。仕事のメールをチェックしたり、リビングのテレビでサッカー観戦をしていたり、動画サイトで英語の勉強をしていたり……。

 一人気儘に暮らしてきた若い頃の多田と大差ないし、何故ここに来たかも忘れそうになってしまうくらい、その姿は普通だった。

 けれどこの二日間、柚乃宮の悲鳴は立て続けだった。一度目は柚乃宮のマンションで。そして今朝は多田のベッドの上で。

 さすがに一緒に寝るなどと言えば引かれるだろうと思った。だから昨夜はリビングのソファで寝ようとしていたのだが、柚乃宮から一緒で構わないと言ってきた。先輩である多田をソファで寝させることに抵抗があったのだろう。実を言うとソファはベッドと一体型のソファベッドで難なく寝られるタイプのものだった。しかしせっかくの機会を無駄にするほど聖人でもない。ありがたく共寝をさせてもらった。

 けれど今朝はその夢心地を吹き飛ばすくらいに怯えた悲鳴を柚乃宮は上げた。

 額には薄っすらと汗が滲み、息も絶え絶えな姿は不安を掻き立てた。そっと起こして手を握る。しがみついて震える肩を抱き締め、勘違いしそうになる情けない自分の頭を叱咤した。





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