新垣弁護士に相談をし、その内容を手短に柚乃宮へ説明した後、柚乃宮とは別れた。
いくら二人が親子で、母親が会いたいと望んだとしても、柚乃宮は成人しているから本人の意思が尊重される。弁護士を通じてしか会わないし話さない、と伝えるよう新垣弁護士から指示された。それを言った時どんな反応をされるのか全く怖いわけではなかったが、それ以外に多田としても取る方法がない。
ゲートの内側から柚乃宮の母親らしき人はすぐに見つかり、目の前まで歩いて行って声を掛けた。
「柚乃宮さんのお母様でいらっしゃいますか?」
「……ええ。」
見知らぬ人間に声を掛けられ虚を突かれたのだろう。彼女は不思議そうな顔を向けてきた。
多田は、いつもお世話になっておりますと頭を軽く下げ、彼女がこの状況を正確に認識する間を与えないように早速話し始めた。
「柚乃宮さんから言付けがあって参りました。連絡に関しては全てこちらに欲しいとのことで預かっております。どうぞ。」
新垣弁護士の名前と連絡先のみ記した紙を渡した。
「……なにかしら、これ。」
「ただいま柚乃宮さんは出張で、こちらに出社されておりません。連絡を取りましたところ、そちらに連絡をくれということで承っております。」
「そうしたら出張先の連絡先を教えていただけますか?」
口調にはすでに刺々しさがあった。イラついているのが仕草でも一目瞭然だった。
「申し訳ありませんが、極秘案件の社外秘なもので。急ぎである場合もそちらに連絡するようにとのことです。こちらとしましては、お伝え出来ることはこれ以上ございませんので、宜しいですか?」
話を長引かせるのはあまり得策とは言えない。威圧的にならないように、けれど反駁の隙を与えないように、先に外堀を埋める。
「……そうですか。わかりました。」
柚乃宮の母親は言い終えないうちに踵を返した。多田は来た時と同じように頭を下げてその姿を見送る。
弁護士を通して連絡を寄越せなんて、只事ではないと誰だってわかる。けれど見知らぬ多田が事情を知っているかどうかは、柚乃宮の母親には窺い知れないことだ。
気配を察する限り、仕草や話し方に落ち着きがなく、普通の精神状態ではなさそうだということは素人目にもわかった。多田は柚乃宮に包み隠さずその事も伝えておこうと決めた。
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