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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー2

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マイ・パートナー2

「心配してた細い線も問題なく出てるな。」

 白地に銀の箔押しのデザインは高級感と清潔感がある。ロゴの細い線が出るかどうかを心配していたのだか、十部全てのゲラで問題なく印刷出来ていた。細さのブレも肉眼ではわからず、許容範囲と言って申し分なさそうだった。

「じゃあ、お客さんのところにこのまま持っていくよ。ありがとう。」

「これで納期も今期中に間に合いそうですね。」

「入金の約束はしてもらってるから、柚乃宮もデザインの分、計上してくれて大丈夫だよ。課長のところには後で書類回すから、確認の旨伝えてくれる?」

 多田はゲラを入っていたビニル袋に戻しながら、端正な顔を柚乃宮に向けた。

「仕事、これで終わりなら飯でも行かない?」

「あと三十分くらいかかりますけど良いですか?」

「いいよ。止まってたブライダル案件が四月から動きそうだから、その事も話したい。一階のロビーで待ってる。」

「わかりました。」

 スッと立ち上がった多田聡(たださとし)の背は高い。一七〇の自分よりだいぶ目線は上だ。確認したことはないが、一八〇近くはあるだろう。警戒を誘うほどではないが、顔も整っている。話すのも人の話を聞くのも上手い。落ち着いた声のトーンはよく通って営業職には向いている。特別鍛えているわけではないと言っていたが、とても三十五には見えない引き締まった体躯をしていた。三十を過ぎて腹の出ている上司が身の回りに山ほどいる。

 年に一度、四月にホテルの会場を貸し切って行われる決起会には、総務や人事の女性陣も一同に集まる。成績も優秀である多田は彼女たちから好奇の目で見られるのが常だった。普段から愛想のいい多田だが、去年は決起会で囲まれた後げっそりしていたのを覚えている。
こんなに男前なのだから結婚相手の候補などいくらでもいるように思うのだが、彼女はいないらしい。社内で浮いた噂を聞いたこともない。

 営業三課の多田は、柚乃宮が入社した当初から世話になっている営業だ。他の営業部署は印刷案件だけを取ってくるが、三課だけはデザインや組版の必要な案件やデジタル案件を受注してくる。

 多田は面倒見が良く、仕事に慣れていなかった頃から手取り足取り指導してくれた。デザイン課は小さな部署で人手が足りない。しかも他の先輩課員は十年以上離れたベテランが多く、新人教育に関して手馴れていなかった。教えを請いにくい状況であったとしても、それでも聞きに行くのが新入社員の仕事だが、やりにくいのは確かだった。右も左もわからないのに、放置され気味だった柚乃宮へいつも先回りして手を差し伸べてくれたのは多田だった。

 今夜のように夕飯に誘ってくれるのも毎度のことだ。上がる話題は仕事のことが大部分。浅はかな興味本位でプライベートな部分をあれこれ詮索してこないことも柚乃宮の心を軽くさせていた。

 ある一時を境に、柚乃宮は自分の心を開くことを苦手としていた。特に自分の過去を話せないし、絶対に知られたくなかった。だから多田は今まで出会ってきた人の中でわりと心地良い距離感の人だった。

 今日一日の作業でデスクトップに散らかしていたデータを整理し、必要なものをサーバに投げ込む。明日のスケジュールを時間系列で箇条書きにして漏れがないかどうか手帳と照らし合わせた。朝から効率的に動けるよう、入社したばかりの頃に多田が教えてくれた方法だ。お陰でやり忘れがない上に、時間の無駄も抑えられているように思う。

 時計に目をやれば時刻は午後七時を回ろうとしていた。デザイン課のメンバーは柚乃宮を入れて五人。柚乃宮以外はベテランなので、彼らの仕事に対して柚乃宮が出来ることはあまり多くない。残業に煩い社風でもあり、今これ以上残ることは賢明とは言えないだろう。

「課長、今日の作業内容と打刻、目通して貰えますか。」

「あ、今ちょっと目が離せないから後で確認するよ。今日はもう上がって。」

 パソコンの電源を落として、デスクの周りを整える。

 席を離れようとして、電話がワンコール鳴って切れた。多田かと一瞬思ったが、非通知なので誰だかわからない。すぐ切れたところをみると、間違え電話かもしれない。

 お疲れ様です、と課員に声を掛け、フロア全体を見渡した。デザイン課以外の社員はほとんど定時で上がってしまうから、他のエリアは人がまばらだ。多田を一階ロビーで待たせている。約束の時間を五分程過ぎていた。エレベーターホールで昇降機を待たず階段を駆け下りる。社員証を当てて退出したゲートの先で、多田はいつも通り人好きのする笑みを浮かべて迎えてくれた。




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