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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー1

年度末。身の軋むような寒さが少し和らぎ、窓の外では春一番の風が吹き荒れ、街路樹は身を撓ませている。どこの部署も期末だけあって数字に煩い。可能な限り計上するよう上からは発破を掛けられる。入社四年目、印刷会社のデザイン課に籍を置く柚乃宮健斗(ゆのみやけんと)もその例外ではなかった。

 柚乃宮はブラックコーヒーを啜りながら、印刷部から上がってきたゲラをチェックしていた。午前中の社内便に間に合わなかったと印刷部から連絡を受けてやきもきしていたが、上がってきた品の状態を見て、少し溜飲を下げた。これなら客先に持っていくのに問題はなさそうだ。柚乃宮はサーバから印刷用のデータを開き、ゲラと再度突き合わせて確認を済ませた後、電話の受話器を上げた。

「デザイン課の柚乃宮です。営業三課の多田さん、いらっしゃいますか。」

「戻ってますよ。ちょっとお待ち下さいね。」

 営業事務の女性のハイトーンな声がそう告げた後、すぐに保留音が鳴り始めた。
都内の高層オフィスビル内に本社を構えるこの印刷会社は、二階から五階までのフロアを使用している。二階に総務部と人事部、三階に営業部、四階にシステム部、五階に制作部と配置され、柚乃宮の在籍するデザイン課は制作部に属していた。印刷部は都内に別途自社工場があり、本社とは車で一時間半の距離、午前と午後の二回に分けて社内便で繫がっている。

『はい、多田です。もしかして製薬のパンフかな?』

「そうです。さっき午後便でゲラが届きました。今、お時間大丈夫なら持っていこうかと思いまして。」

『悪いね。そうしてくれる?』

 では、と言って早急に受話器を置いてから、柚乃宮は苦笑する。用件だけ伝えて唐突に電話を切ることを、先日多田から指摘されたばかりだったからだ。用件が伝わればそれで良いではないかと思うのだが、多田曰く素っ気なさ過ぎて、最初機嫌が悪いのかと思ったらしい。
電話は相手の顔が見えなくて苦手だ。対面していれば相手の機微を見て、話の流れの良し悪しが掴める。電話はそれが難しい。

「課長、多田さんのところへ行ってきます。」

 書類の束に埋もれて姿の確認できない課長が陽気な返事を寄越してくる。期末で予算を達成していようがいなかろうが、全く緊張感が見えないのはいつものことである。
しかし締めの二週間前を切ってから、帳尻合わせのように怒濤の仕事量を投げ込んでくる。今年も油断ならない。温厚な面に騙されるつもりは毛頭なく、柚乃宮はラスト二週間が終電になることを既に覚悟していた。

 エレベーターホールに出て四基のエレベーターの位置を確認する。どれも上層階の三十階付近をうろうろしていた。二つ階を下るだけだ。デスクワークで凝り固まった身体を解すには丁度いい。自販機の脇にあるダストボックスに飲み終わった紙コップを投げ入れて、柚乃宮は三階の営業部へと急いだ。




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