ワンコールだけ鳴って切れる。もうこれで何度目だろう。五回まで数えていたがそれ以降は不気味になってやめた。
外回りから帰社した多田の内線を受けたのが午後二時過ぎ。その後から一時間も経っていないのに十回は軽く超えている。
始まりがいつだったか正確には覚えていない。しかし日を経るごとにその回数が増えていることだけは確かだ。今日が今までで一番多い。非通知なのも厄介だった。
「イタズラにしても、随分悪質だよねぇ。」
志摩課長がおどけた口調で言うが、集中力を削がれるコール音に内心不愉快にはなっているだろう。
デザイン課はほとんど外から電話を受けない。独自で獲得してくる案件が少ないから、ほとんど営業ルートだ。だから電話の主な仕様用途は内線だ。
けれど外部と直接接点を持つ可能性のある部署は、番号をホームページで公開しているから誰でも入手できてしまう。間口を広く持つという意味では良いことなのかもしれないが、イタズラに使われるとこちらも仕事がしずらい。
「今持ってるお客さんで、自分の携帯の番号伝えてないっていうケースある?」
柚乃宮は営業を通してしか仕事は貰っていない。他のデザイナー三人も首を横に振った。
「じゃあ、抜くか。」
電話のコードを嬉しそうに志摩課長が抜く。何でもストレスフリーに楽しくやってしまうのがこの人の良いところだと、柚乃宮は思っている。機嫌が悪いところをあまり見たことがないから、無意味な緊張を強いられることがない。無口なメンバーが多いので、課長のひょうきんさが目立つ。デザイン課の雰囲気はいつも和やかだ。
「社内の連絡に関しては、俺から各方面に言っておくから。」
そう言って、早速どこかに電話をかけ始める。内容から察するに総務部だろう。全く関係のなさそうな話でひとしきり盛り上がった後、主題に入る。これもいつものことだ。
イタ電が酷くて切っちゃったんだよね、と志摩課長の軽快な話し声が聞こえてくる。
書類の山が壁となって志摩課長を囲っているが、その高さが日増しに高くなっていく。年末の大掃除の際にも片付けられることなく、年を越した。課長のデスクに寄る時は、うっかり触れて崩さないように神経を使う。
ものを溜め込まない質の柚乃宮は、あの山をいつか綺麗さっぱり無くすことを密かに夢見ている。しかし課長に意見出来る日はまだまだ遠い先の事だろうと溜息を吐いた。
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