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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

マイ・パートナー11

『はい、デザイン課の柚乃宮です。』

 デザイン課の五人の内線番号は同じで誰が取るかはわからない。けれど手が空いていない時を除き、一番若手である柚乃宮が高確率で電話を取る。多田と話し始めると慣れから少し話し方が崩れるが、電話を取った瞬間の外向きのクールな話し方も嫌いではなかった。

「多田です。この間の製薬のパンフ、印刷かけて明後日以降、各支社に納品になったから、よろしく。」

『そうですか、良かった。』

 色校正の段階でストップがかかると、決定までに揉めて、時間を食われることも多い。あからさまにホッとした柚乃宮の声を聞いて、思わず口が綻ぶ。

「その流れで、営業ツールになるカレンダーを受注したから、その報告。今回、紙の質やデザインも拘りたいってことだから、一度客先に来てもらいたいんだよね。ブライダルの方もあるから、出る日は纏めた方がいいだろ?」

『できれば……。』

 デザイナーは時間を細切れにされると作業に集中出来なくなる。それは会議資料を作る時などに多田も思うことだから、似たようなものだろう。客の都合だけに振り回されず、上手くこちらのやり易いように誘導するのも営業スキルだ。ただ期待だけさせてガッカリさせるようなことがあっては可哀想なので、柚乃宮にはいつも必要以上の期待をさせないように釘を刺す。

「出来る限り、調整する。見積もりに関しては後で志摩課長と相談することになってるから。」

 そう告げると柚乃宮が不満そうに返事をしてきた。何故不満なのかはわかっている。デザインの話をする時は一緒に打ち合わせをするのに、見積もりの話をする時は柚乃宮を呼ばないからだ。

「紙やインクの特質、コストや仕入れのことをもうちょっと勉強してくれないとね。俺と志摩課長の話だけ聞いてても、断片的だから理解できないよ。それだと仕事にはならないから。」

『多田さんって、そういうところ容赦ない。』

 下心がある所為で、柚乃宮に対して仕事の面では多少厳しく当たっている自覚はあった。けれど欲目で甘くなるよりはいいだろうと、柚乃宮からしてみれば大変理不尽な結論に達している。変えられる気がしないので、そこは諦めてもらうしかない。

「何が足りないのかは指摘してるわけだから、後は勉強。」

 はい、と萎れた声が返ってきて、すぐに耳の向こう側で受話器が置かれた音を聞く。相変わらずあっさり切ってしまう柚乃宮の素っ気なさを残念に思うものの、隣りから発せられた声に身構える。

「多田さんって、柚乃宮くんと仲良しでしょ。なのに仕事だと厳しいよねぇ。」

 そんな事ありませんよ、とだけ隣人に返す。

 営業事務をしている三つ後輩の笹塚の言うことは的を得ている。

 多田の本質まではわかっていないにしろ、侮れないなと内心苦笑して、見積書を作成するべくパソコンに向かった。




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