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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』7

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』7

搬入作業の間、宮小路はマメにスタッフの顔を見ながら、進捗状況を確認していく。荷解きをしていたスタッフから資材の梱包漏れがあると報告を受け、鎌田に代用品を買いに走らせる。自社商品さえ揃っていればやりようはある。宮小路は平謝りのスタッフに苦言を呈することはせず、すぐ作業に戻らせた。

グループで扱うファブリックは定番品から新商品までラインナップは多彩だ。種類の豊富さが売りでもあるので、壁一面にセッティングを終えると、それだけで圧巻だ。

グループ本社で決められた展示方法なので、宮小路に否を言う権限はない。しかし毎年捻りのない自社の展示に飽きがきているのも本音だ。自分や鎌田が現場に駆り出されるのは体裁だけ。実質広報のスタッフで事足りる。

ただ予期せぬトラブルや商談でひと押し必要な時に宮小路の顔が役に立つ。それでも手腕を発揮する機会もないまま終える年が少なくない。企業として信頼が確立されている証だが、刺激の足りなさは如何ともし難い。

「宮小路、これでどうだ?」

展示会場から程近いホームセンターへ買いに出ていた鎌田が戻ってくる。右手に長いポールが握られており、彼は軽く振って掲げてみせた。

「ありがとう、鎌田。残りの商品もセッティングしよう。」

「宮小路さん、我々で設置はやりますので。」

「……そうか。」

少しくらい作業に関わりたかったが、目敏く察知してきたスタッフが宮小路と鎌田から仕事を奪っていく。手持ち無沙汰の状況に溜息をつくと、鎌田が宮小路を横目に笑った。

「俺たちがヒマなのは、概ね順調だってことだろ。俺たちが腕を奮ってるんじゃ、スタッフは青褪めるよ。」

「最後まで自分の手でやりきりたいけど、贅沢な悩みなんだろうな。ちょっと早いが挨拶回りに行こう。これじゃ職なしだ。」

「そうだな。」

配布された会場マップとは別に、独自に集めた担当者情報が、宮小路と鎌田の頭には入っている。競合他社という視点だけでなく、互いの強みを活かして共同開発を進め、販路を増やしていくという道もある。業界全体を把握するマクロな視点、個々の特殊性にアンテナを張るミクロな視点、その両方が経営者には課せられる。見つめる先は十年後、二十年後だと、父の勉には口酸っぱく叩き込まれてきた。

「宮小路。例のホテルに納品するファブリック、ピンとくるものはあったのか?」

「オーナーのこだわりが並みじゃないからな。久々に苦戦してる。」

表参道から程近い立地にホテル、メゾン・マリィが間もなく完成する。部屋数は少なく、全室スイートルーム仕様というオーダーを受けている。当然価格帯もハイクラスだ。フランス人オーナーが寝具に関して特にこだわりが強く、宮小路は納得できる品に出会えていない。

「シンプルで丈夫、肌触りが良くて、上品な白。あるようで、なかなかないよ。少なくとも、あの内装に合う物がうちの既製品にはない。」

「オーダー品を作れるほど予算はないしな。」

「そこなんだよ……。今日が勝負……ッ!」

「どうし……あぁ……」

一点を凝視して立ち止まった宮小路を鎌田が不審そうに見る。しかし宮小路の視線の先に目を向けて、納得したらしかった。

「強運というか、何というか……。」

「もう、これは運命だな。」

鎌田の呆れ顔を無視して、涼やかな横顔が美しい青年のもとへ靴音を響かせてゆっくり近付いていく。

「どうも。」

誰かが近付いてくることを察知していたらしいものの、彼の眼孔は宮小路を捉えて大きく見開いた。

「あ……。」

「お久しぶりですと言うほどではありませんが。井伊工房の方ですか?」

「はい。」

青年の白い手が、無造作に床へ置かれた鞄を取り、中から名刺入れを出す。少し慌てたような仕草を意外に思ったが、宮小路は浮き足立った気分のまま、一連の動作を眺める。そして差し出された名刺に飛び上がらず、冷静さを保った己の行動を自分で褒めた。

「先日は驚いてしまいまして、失礼いたしました。永井晃と申します。」

「永井さん。よろしければ、明日、お時間をいただけないでしょうか。」

宮小路の瞳はもちろん目の前の永井を愛でていたが、彼が展示用に持ち込んでいた布地にも興味の視線を注いでいた。

「そちらの商品に関して、是非お話を伺いたいのです。」

「勿論です。しかし、宮小路さんも展示中はお忙しいですよね?」

「我儘を承知で申し上げれば、閉幕後にお時間をいただきたい。」

「構いません。夕方の五時以降、空けておきます。」

「ありがとうございます。改めて場所と日時をお電話でご連絡させていただきます。」

名刺という宝物を手に、小躍りしたい気分を押し殺して、柔和な笑みと共に腰を折る。平静を装って井伊工房のスペースを離れたものの、鎌田には冷めた眼差しを向けられた。

「鎌田。表参道にレストランの予約を。」

「おまえ、ホントに仕事の話する気あるのか。」

「大ありだよ。できればメゾン・マリィの近場で頼む。」

「わかったよ。」

誰にとっても損にならない話だと先走って満足する宮小路の横で、鎌田が大仰に溜息をつく。しかし呆れ顔を寄越しながら、早速レストランの予約に取り掛り始めた。









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