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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』19

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』19

永井と二人揃って事務所を出たのは、思いのほか白熱した打ち合わせになったからだ。一所懸命さが可愛くて見惚れていたなんて口が裂けても言えないが、クールダウンがてら『アクアリウム』へお茶に出たのは正解だ。宮小路は永井の緊張が幾分和らいだことを見落とさなかった。

普段は涼やかで内に秘めて見える分、要望を隈なく引き出そうと、宮小路の話に食い付く彼の熱心さを少し意外な気持ちで眺める。恥じらって目をそらす彼とは違う魅力があり、宮小路の心はがっつり掴まれて、彼から目が離せない。

四人席を陣取って、めいいっぱい広げた付箋を永井がペタペタとスケッチブックに収めていく。これだけ雑多な意見を集約して編んでいくのは骨の折れる作業だが、期日を譲れば鎌田から惚れた弱みだと苦言が飛んでくることは避けられない。きっと彼なら成し遂げてくれると期待して、宮小路は手帳を閉じた。

「永井さん。今夜のご予定は?」

「……え?」

「今朝の続きを。」

「……。」

「私としては昨夜のことを一刻も早く……ッ」

小振りな手が宮小路の口を塞ぐために飛んでくる。永井がちらりと視線をやった先には、彼と同じ年頃の女性店員がいた。その事が少し面白くなかったが、口を塞ぐ滑らかな指の感触に溜飲を下げ、意地の悪い悪戯は堪える。

「場所を……変えましょう……」

「永井さんがそうおっしゃるなら。」

もちろん最初から好奇の目が集まるここで話し込むつもりはない。彼と二人きりになるための茶番だ。

「あの……」

遠慮がちな声が、タクシーを呼ぼうとして携帯電話を取り出した宮小路の手を止める。

「何でしょう。」

「今日は私がご案内します。」

昨夜の件ですっかり警戒されてしまったらしいことに宮小路は苦笑する。また飲まされたら堪らないということだろう。

「どこでも構いません。永井さんにお任せします。」

永井があからさまにホッとした顔をしたので、宮小路は笑いを堪えるのに必死だった。


* * *


「こういうところでお食事されるイメージが全くありませんけど……。ここ、とても美味しいんですよ。」

「そんな事はありません。よく鎌田と……ああ、私のスケジュール管理を買って出てくれている男がいるのですが、彼とよく行きます。私もサラリーマンですからね。」

「そうなんですか?」

意外そうな顔をした永井は少し嬉しそうに目を細めて口角を上げる。

やはり呑み屋を選ばなかったところを見る限り、永井はあまり酒を飲まないたちなのだろう。和食を提供するらしいこの店は、木造家屋を改装しモダンな要素も取り入れた趣ある店内だ。半個室に通され永井が木の椅子に座ると、すっかり彼の黒髪が景色に馴染む。

「色の具合を見てみたいと思ったんです。」

照明の具合は確かにメゾン・マリィを彷彿させる。彼が鞄の中から布地のサンプルを取り出すので、どうやら仕事の延長でここへ連れて来られたという残念な事実に気付く。仕事熱心なのは感心だが、このままだと昨夜のことを有耶無耶にされそうだと、少しばかり危機感が芽生える。

「永井さん。場所を変えた目的を忘れられたら困ります。」

「ッ……わかっています。でも、話すことなんて……」

「そんな事おっしゃるなら、意地悪をしますよ。たとえば……」

ずっとタイミングを見計らって鞄に潜ませていた物をテーブルへ置く。小箱を見た永井の目は宮小路の想像を遥かに超えて驚きの色に染まって大きく見開かれた。

「宮小路さん、それは……」

「永井さんの落し物でしょう?」

「はい。」

「私の車に落ちていたのを、鎌田が見つけました。でも……」

「え……」

一度テーブルへ置いた小箱を宮小路が再び鞄の中へ隠してしまうと、永井が戸惑ったように瞳を揺らす。

「永井さんが真剣に私の話を聞いてくださるまで、お返ししません。」

「ッ……」

優越感が一瞬にして焦りへ変わったのは、永井から泣きそうな気配を察知したからだ。しかし彼を改めて見つめ直すと、困った顔で俯いただけだった。

「宮小路さんに……好かれる理由がわかりません。」

「それは困りました。信じていただけないと話が先に進みませんね。」

本音では、この後どうやって自宅へ連れ込もうか悩んでいるだけだ。

今まで自宅へ招こうと思った恋人はいない。誠実さの塊である永井のことを、まず人として信用している。一夜限りなんて考えられない。これほどまで内に抱え込みたい相手と巡り会えたことはなかった。要はすっかり嵌ってしまっている。

「私の事をお話ししますから、永井さんがそれでも信用ならないとおっしゃるなら、致し方ないですね。でも駄目な理由をちゃんと教えてください。納得できたら、こちらはお返ししますよ。」

心底意地が悪いなと自分を笑う。話し合いではなく、こんなのは脅しだ。鎌田が横で見ていたら拳の一つは食らうだろう。狡いことをしている自覚はあるからタチが悪い。

運ばれてきた御膳を伏せ目がちに黙々と食べ始めた永井を眺め、宮小路もせっせと自宅へ連行する策を練った。








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