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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』18

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』18

掃除の行き届いた綺麗な外観だったが、建物自体、新しいわけではないらしい。その証拠に長年の風雨の跡は刻まれ、外壁のタイルはところどころ色素沈着を起こしている。

インターフォンを鳴らすと年輩らしき女性の声で応答があり、永井にとってはこれも意外だった。

自動ドアのロックが外され、中へ入るよう促されたが、構えていたような奇抜さは見当たらない。近年リフォームしたらしく綺麗になっていたが、全体的に淡いベージュで整えられた落ち着いた内装だ。

真っ直ぐと中まで続く廊下には正方形の小さな絵画がずらりと連なっていて、夏にぴったりなマリンブルーの水面が壁を彩っている。

どこまで進もうか戸惑っていると、すぐに宮小路本人が一番奥の部屋から顔を出して、手招きをした。

「永井さん、暑かったでしょう。先に水分補給をしてください。」

「いえ……お気遣いなく……」

道の途中、焦って走ったものだから、シャツの下は汗ばんでいる。顔に玉のような汗を浮かべていないことだけが幸いだ。

宮小路本人が二人分の麦茶を携えていたので、これまた意外な光景に永井は目を瞬かせる。社長だというのに、お茶出しまで自分でやるらしい。

「永井さんに涼んでいただいてから始めましょう。」

「いえ、そんな……」

「遠慮なさらずこちらへ座ってください。」

「……」

促された長椅子へ腰を下ろすと、何故か宮小路が隣りへ腰を下ろす。空調が効いているおかげで暑さによる汗は引き始めていたが、今度は別の汗に悩まされそうで気が気ではない。どうにも仕事をする距離間とは言い難く、永井は硬直しながら宮小路から目を逸らした。

「企画書と見積書をお持ちいたしました。」

「仕事熱心なところも好きですよ。でも、まずはこちらから。」

永井の手から企画書と見積書の入った封筒を受け取り、代わりに麦茶の入ったグラスを握らせてくる。さあ、と促されれば口を付けるより他ない。しかし一度飲み始めれば喉の渇きに気付く。暑さと緊張は永井から水分を奪っていたようだ。蚊の鳴くような声で礼を言うと、宮小路がようやく満足そうに微笑んできた。

「永井さん、火照った顔をしていますよ。一息ついてくださらないと、私がおかしな気分になりそうです。ですから……」

「宮小路」

突然部屋のドアがノックされ、永井は掴まれた手ごと震わせる。どう考えても仕事をしている距離感ではないので、見られてはいけないような気がして動揺する。しかしドアは開かず、宮小路は至って涼しい顔で呼び掛けてきた声の主に応えた。

「何だ?」

「内装イメージの図案だ。」

「ありがとう。」

離れて立ち上がった宮小路はドアを開けて大きな図面を受け取ったようだ。しかし永井の位置からはドアの向こう側にいる人物の顔は見ることができない。

「永井さん、我々の構想をご覧いただけますか。こちらに井伊工房のファブリックを使いたいのです。」

テーブルに広げられた図案に目を見張る。図案は全て手描きされたようで、色鉛筆で彩色が施されている。

照明が間接照明に統一されている以外は部屋ごとにテーマが違い、非常に手が込んでいる。配置される調度品には年季を感じ、実に緻密で臨場感のある図案として起こされていた。

フランス人のオーナーだと聞いていたが、調度品は日本各地でオーナー自ら仕入れたという拘りようだ。

「外観からてっきり洋館のような内装を想像していましたが、畳のスペースもあるんですね。」

「オーナーが日本の文化に惚れ込んでいるんですよ。畳は琉球畳を使います。あらゆるお客様を想定してベッドも併設しますが、ご要望があれば敷布団でも対応できるようにしていきます。」

「ベッド用と敷布団用と、リネンが二倍必要なわけですね。」

「そういう事です。」

種類が増えると、その分クリーニングも複雑になる。つまり維持するためのコストも手間も増えるわけで、複雑化するのは避けたいところだろう。

「シーツとピローカバーは兼用できるものを用意したいのです。あとバスローブと浴衣も必要です。」

「バスローブと浴衣、どちらも作るんですか?」

「永井さん。本来バスローブは入浴後に使うバスタオル代わりのもので、寝間着ではないんです。丁度いいサイズの寝間着がなかったので、永井さんにはバスローブで寝ていただきましたが。」

「ッ……」

勉強不足である上に、今朝の事を引き合いに出され、恥ずかしさで思わず赤面する。永井にとっては初めての事だったのだ。戯言だと流せるほど昨夜の事を軽視できない。

「最終的にお願いしたいリネンはこちらに書き出しました。」

一方の宮小路は永井を見つめ、目を細めて微笑むだけで、実に上機嫌だ。一つひとつの説明も軽やかで、永井との時間を楽しんでいるようにすら見える。

ずらりと並んだリストに仕事の大きさが窺える。もし正式な契約に至れば、小さい井伊工房にとって今年一番の仕事になることは間違えないだろう。

「サンプルの見積りもこちらの予算内ですから、このまま進めてください。シーツとピローカバーの期日は二週間後。」

「承知しました。」

タイトなスケジュールだが何事もそこを乗り越えないと次のステージにはいけない。甘くない期日に、宮小路に公私混同をする意思がないことを悟って、永井は少しだけホッとした。










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