軽快にファンファーレでも奏でたくなる朝。悩ませている事すら嬉しくて、つい悪乗りしたことは認めなければならない。
真面目な性格が祟って気に病んでいるようだったが、ルームサービスで取り寄せた朝食を永井は残さず平らげる。
宮小路はその様子を見て一安心し、フロントに頼んでおいたジャケットやシャツを永井に着せていった。されるがまま、しかし戸惑い萎れる仕草が堪らなくて、思わず手を引き寄せて唇を寄せる。
困惑したままの永井に、逃げないでほしいと懇願すると、彼は諦めたように小さく頷いて部屋をあとにした。
彼が動揺し、失念してくれたおかけで、食事代や部屋代で揉めなかったのは幸いだ。最初から全て支払うつもりだったから、彼が思い出して青褪めることのないように願う。
「鎌田、朝は自分で出勤するから迎えは結構だ。」
『まさかと思うが、ホテルに連れ込んでるんじゃないだろうな?』
「そのまさかだが、やましいことはしてない。」
そんなわけがないだろうと断罪されて、いかに鎌田から信用がないのかわかる。今までの自分を顧みれば致し方のない非難だ。
『これから仕事をする相手だぞ。おまえ正気か?』
「おまえが疑うような事は本当にしてないんだが……。彼が酔って憶えていないみたいでね。こんなチャンス逃す手はないから、寝たことにした。話を合わせろよ。」
『そんな話に合わせる機会があってたまるか。』
「まぁ、そう怒るなよ。仕事の方は真面目にやるから。」
想像通りの小言も楽しく感じてしまうのは、浮かれている証拠だ。別れたばかりなのに、彼の慎ましい横顔を今すぐにでも目に入れて愛でたい欲求に苛まれる。
永井の性格を考えると、自ら仕事の約束を反故にするようなタイプには見えない。気に病んで倒れないかは心配だが、午後無事に辿り着いてくれたら、ちゃんと正式なお付き合いを提案するつもりだ。
彼が宮小路と寝た事実そのものを疑わなかったことから、ちゃんと性癖を自覚している確信もあった。
『強い酒でも飲ませて潰したんだろ?』
「意図してやったわけじゃない。顔色も悪くなかったし、本当に気付かなかったんだ。」
『仕事が終わった相手ならまだしも……。とりあえず、相手の素性は調べるからな。』
「やめてくれ。嘘をつかせてしまうなら、それは俺の落ち度だ。」
『バカ言うな。知りたくないなら、おまえには報告しない。でも何かあってからじゃ、こっちは大迷惑だ。』
親父さんには黙っておく、と最後に情けをかけてくれたのが鎌田らしくて、宮小路はホッと肩を撫で下ろす。持つべきものは理解者だ。
宮小路は二言三言、鎌田にスケジュールの再確認を取り、残りの支度をのんびり整えて、出勤するために部屋を出た。
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朝霧とおる
1. 無題
ご無沙汰しています。
宮小路社長、悪い男だぁ~♪
なかったことをあったことにするなんて~。
でも、チャンスを生かさないと恋愛に進みませんものね。
永井さんの戸惑いが初々しいです。
Re:無題
連日の暑さにバテ気味でしたが、本日こちらは雨に降られ、久々に暑さが小休止したものでホッとしております。
宮小路は年を重ねてマイペースさに拍車がかかってしまったような人ですが、永井は生真面目だけど中途半端な自分に揺れ動く脆さがあります。
初めてのことばかりに戸惑い、内気な永井が少しずつ宮小路に心許していく様子を楽しんでいただけるように頑張ります!
仕事をしていると突然思いもよらない道が拓けることがあったりするものですが、二人の出会いが生む相乗効果を、恋愛と仕事の両方から書けたらなぁと、密かに野望を・・・。
この先も、宮小路と永井を見守っていただけたらと思います!!