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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

宮小路社長と永井さん『アクアリウム』12

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宮小路社長と永井さん『アクアリウム』12

鎌田に知られたら小言では済まないだろう。しかし自分でも予想外の事態だったから致し方ない。顔色は悪くなかったし、こちらが勧めるままにシャンパンも白ワインも難なく飲み干していたから油断していた。

あえて予兆として挙げるとすれば、随分熱心に宮小路のことを見つめていたということくらいだ。興味を持ってくれたのかと勘違いして陽気になっていた自分が恥ずかしい。

店の裏口から彼を抱え上げて脱出する。鎌田を返して正解だった。彼がいたら、チャンスをみすみす逃すところだった。

横付けしてもらったタクシーの後部座席にすぐ雪崩れ込んだのだので、奇妙な光景を目撃した者はいない。店のスタッフはもちろん知っているが、口の固い精鋭揃いだから信頼している。

「永井さん、気分は悪くありませんか?」

「いい、え……」

永井が身体を傾げたのは一瞬で、声掛けにはかろうじて答えがある。しかし彼の内気そうな性格を考えれば、大胆に身体を預けてくる今は正常とは言い難い。思わぬ役得に、宮小路は迷わず行き先としてホテルを告げる。

空室を調べてホテルの一室を押さえるのは慣れたものだ。しかし手出しするつもりはなく、あくまで誠実に介抱するつもりだった。宮小路が促せば大抵の人は飲まざるを得ない状況になるのは事実だから、責任は感じる。

うとうとと肩に頭を預けてくる彼の重みが心地いい。酔っても絡み酒や泣き上戸ではなく、どこか慎ましい仕草が永井らしい。どこまでも宮小路の理想を体現してくれる彼に、髪の天辺から爪の先まで愛でたい欲求がふつふつと湧いてくる。惚れた男に世話を焼くのは願ってもない展開だ。

都内のタワーホテルにタクシーを付け、軽い肩を抱えてロビーのソファに永井を座らせた。幸いロビーに人影はほとんど見当たらない。宮小路の姿にスタッフがカードキーを片手にやってくる。上客である宮小路はフロントスタッフに顔を覚えられているので、大概雑多な手続きは省略される。

「案内はいいよ。」

「かしこまりました。」

カードキーだけ渡して、フロントスタッフは潔く下がっていく。

「永井さん、掴まって。」

囁いて促すと、気怠そうな瞳で見上げてくるだけで、ソファに投げ出した身体が動く気配はない。もう半分夢の中にいるらしい。

「部屋で休みましょう。今日はお疲れでしょう?」

再び肩を抱えて最上階のスイートルームへ向かう。疲れは多少あったはずだが、思わぬ僥倖に吹き飛んでしまった。永井をどんな風に甘やかそうかと考えるだけでも、わくわくして落ち着かない。乗り込んだ高速エレベーターの速度が遅く感じられたほどだ。

最上階にあるたった一つの部屋にカードキーを通し、永井の膝下と背に手を添えて抱き上げた。広いバスタブに永井の身体を収めると、サマージャケットやシャツをゆっくり剥いでいく。抵抗がないことがわかるとパンツスーツにも手を掛けて彼を包むものを全て取り払った。

「ふぅ……ん……」

バスタブの冷たさが熱い肌を刺激して驚いたのだろう。悩まし気な声が一瞬彼の唇からこぼれる。しかし湯を溜め始めると、永井が安堵したように息をついた。

宮小路はジャケットだけ放って、シャツを腕まくりする。肌にジャケットが当たっていると、こそばゆくて耐えられず、夏場でも長袖なのだ。

シャワーのコックを捻って適温にしてから、バスタブにもたれかかる永井の髪に手を伸ばして、そっと揉み洗っていく。黒く艶のある髪は想像より柔らかくて、湯に通すとさらに漆黒度を増す。
隅々までこの手で洗い尽くして上質なバスローブで包み、目の保養にするのが今夜の目標だ。それまでどうか酔いから醒めないでくれと願う。

「永井さん、気持ちいいでしょ?」

「ん……」

献身的になろうとすればするほど、宮小路の狂気的な惚れ込みように、歯車が狂っていく。しかし鎌田の言う通りなら、初めから噛み合わせの悪い相手を選ぶから、転げ落ちていくように関係がおかしくなるのだ。

「だって、骨の髄まで愛し尽くしたいじゃないか。ねぇ、永井さん。」

返事の代わりに、永井の身体がピクリと小さく跳ねて身動ぐ。しかしシャンプーの泡と宮小路の長い指に頭部を抱擁されて、すぐ収まりのいい場所を見つけたようだった。

永井の凝りを解すように指圧でマッサージを繰り返す。シャンプーの香りが永井の髪に染み渡ったところで、宮小路は永井の顔に泡が滑り落ちないよう、丁寧に洗い流した。

一緒にバスタブへ入らないのは、この身体を暴走させないための自衛だ。今夜は介抱するだけと決めたから、紳士的な振る舞いから外れるような行為はしたくない。鎌田が見ていれば現時点でレッドカードを突き付けられそうだが、些細な価値観の違いだ。

「永井さん、私が触れるのを許してくれますか?」

大人しい酔っ払いは、温かい湯に揺られて気持ち良さそうに目を瞑る。もうすっかり夢の中かもしれない。明朝、恥じらいと戸惑いの顔を浮かべて宮小路を見上げてくるのが容易に想像できて、今から楽しみで頭が沸騰しそうになる。

バスタブへ投入した湯とソープが豊潤な泡で永井を包み始めたので、彼の滑らかな肌が隠されていく。永井の初々しく淡いピンク色の象徴も、すっかり雲隠れしてしまった。その分、罪悪感はなりを潜めて、弄る宮小路の手も大胆になっていく。

身体を隈なく撫で洗っていくと、敏感らしい肌が驚いて、小さく幾度も跳ねていく。象徴を目にとめた時も思ったことだが、恐らく人に許したことのない綺麗な身体。あったとしてもさほど多くはないはずだ。

頬に思わず唇を寄せて、柔らかく滑らかな感触に眩暈がする。ソープの甘い匂いを嗅ぎ、永井の美しい肌を見ているだけで倒錯的な気分になる。

「危ない、危ない。魅力的過ぎて、勘違いしてしまいそうだ。」

まだ自分の手中に収めたわけではない。場合によっては永井から軽蔑される恐れもあるわけで、油断は禁物だ。

けれど清廉なイメージ通り、理想の身体を曝した永井を前に、溺れず理性を保つことは容易くない。

清めるために、と自分に言い訳をして永井の象徴に触れてみる。ピクリと永井の身体が震えて強張ったが、幸か不幸か反応を示す様子はない。

「アルコールが強過ぎたかな。」

これはあくまで酔い潰れてしまった永井の介抱だと改めて自分に言い聞かせ、身体を清める手を再開させる。

すっかりアルコール臭から解放されて湯から引き揚げた頃には、永井は宮小路の慣れ親しんだ香りを纏って、真っ白なバスローブに包まれて仕上がった。










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