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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この手を取るなら43

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この手を取るなら43

適度な言い訳はするが、バレたらその時。別に恥ずべきことだとも思わない。恵一が隠したがっているから、その意思を尊重しているだけだ。

恵一を産んだのは確かに目の前に座る女性だが、恵一の人生は恵一だけのもの。彼女の思い通りになるものでもない。

彼女の視線が早速ベッドに行き着いたので、内心こっそり溜息をつく。息子が女を連れ込んでいる事を心配しているなら、確かに真っ先に目につくだろう。

「三島くんは、恵一と同じ学科なの?」

「いえ、俺は建築学科です。恵一とは芸祭で知り合ったんですよ。」

「あの子、ちゃんとご飯食べてるのかしら。」

「俺たち自炊してますよ。朝は前の日の残りものですけど、ちゃんと食べてますよ。」

「そう、なら良いだけど・・・。」

恵一はシャワールームで染物に勤しんでいる。会話から逃げる口実を作るために、課題を持ち帰ってきたのだ。

恵一の母が紳助だけに聞こえるように、さらに小声で尋ねてくる。

「あの子、誰かお付き合いしてる子とかいるのかしら。」

「いないですよ。」

「あら、そうなの?」

疑いの目で凝視されるが知らぬ顔で視線をかわす。

「事務所が目光らせてるし、大学ある時は朝から晩まで制作だし。朝一緒に出て、大学から直帰して一緒に飯食べますからね。逆に心配なくらい女の影ないですよ。」

ベッドに注がれている視線をさすがに無視できなくなり、仕方なく当たり障りのない理由を並べることにした。

「ベッドが一つなのは、単純に部屋が狭くて金もないからですよ。元々俺がここで一人暮らししてるところに恵一が来たから、こうなったんです。今でも金銭的には正直カツカツなんで。引っ越して、っていうのも金掛かっちゃいますし。男ばっかのルームシェアだと、結構どこもこんな感じで適当ですよ。」

「ああ、そういうことなの。」

本当に納得したかどうかはわからないが、疑いの目から解放されたので、紳助は席を立ってキッチンへ向かう。気を遣い過ぎるとかえって疑われるものだが、自分を同居人として納得させるには、お茶の一つくらい入れておくべきだろうと思ったのだ。

「恵一、まだ時間掛かりそうなのか?」

「ごめん! ちょっと、まだムリ!」

恵一が珍しく声を張り上げてシャワールームから答えてくる。

「コーヒーでも飲みませんか? あいつ、没頭し出すと長いですから。」

「あの子、昔からそうなのよ。」

恵一の幼い頃。どんな子ども時代を過ごしたのか少し覗いてみたい気もする。けれど目の前にいるこの人と思い出を共有してしまえば、嘘をついている罪悪感から逃れられそうにない。紳助は覗き見たい過去への欲求を一度仕舞い込んで、それとなく話を流すに留めた。

恵一の事になると、自分のものだと誇示したくなる欲求と闘わなくてはならない。自分のものだと言うのは簡単だ。しかし言ってしまった後の事を考えれば、言わずに済むならそれに越したことはない。言えばトラブルの種にしかならないだろう。

誰だって幸せになりたいものだと思う。紳助だってそれは例外ではない。自分の幸せを手離さずに済むなら、多分この先も自分は平気で嘘をつくだろう。

すっかり気を許してくれた恵一の母と、それからたわいもない話をして、ようやくシャワールームから出てきた恵一と一緒に並んで彼女を送り出した。

この先ずっと紳助の口から彼女に真実を告げる日は来ないと思う。悪いと思う気持ちを捨て去る覚悟をした。恵一の手を離さない。そこに善悪は必要ない。

「ごめん、ずっと相手させて・・・。」

「まぁ、出てこなくて正解だろ。自分の息子が嘘ついてるかどうか、母親を舐めると痛い目に遭う。」

「紳助でもバレる?」

「さすがにお袋は騙そうと思っても騙せない。最悪な事に似たタイプだから。」

敵わないから距離をとっていると言ってもいいくらい。自分の場合、恵一のところのように複雑な家族間の心情があるわけではなく、単純に面倒で寄り付かないだけだが。

「紳助に似てるの?」

「逆だろ? 俺がお袋に似てるんだ。」

「蛙の子は蛙?」

「恵一もお袋さんに似てるよな。」

「・・・そう?」

恵一本人は首を傾げたが、似ている。見た目の問題ではなく、話し方とか警戒心が強いところ、けれど一度気を許すと相手にどっぷりなところが似ている。悪く言えば、懐に取り込んでしまえば扱いやすいタイプ。

しかしこれで一旦、恵一の周囲は落ち着く気がした。建築事務所での仕事もこれから本格的になっていくので、このまま読み通りに沈静化してくれる事を願うしかない。そうでなければ引き摺られて共倒れしてしまう。

「紳助」

「うん?」

「ちょっと、ホッとした。どうなる事かと思ってたけど・・・。」

「俺のセリフだよ。」

「だよね・・・ごめん。」

「今日はサービスしてもらうかな。頑張ったんだから、ご褒美だろ?」

「ッ・・・。」

顔を真っ赤にして狼狽えるものだから、可笑しくてつい吹き出しそうになる。

「恵一。エロい事しろとか言ってないだろ?」

「ッ・・・性格悪い・・・」

「今さらだろ。」

恵一が抗議するように睨み付けてくるけれど、抱き締めると満更でもない顔をして胸に治まってくる。

可愛い恋人に気を良くして、紳助は熱いキスを贈った。














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