恵一はきっとまた途方に暮れているのだ。気持ちの塞いでいる彼を見て、ただ愛おしい気持ちだけが込み上げてくる。
奮起して乗り越えてくれだとか、笑顔でいろだなんて安っぽい事は微塵も思わない。
泣きたい時は泣けばいいし、思う存分落ち込める場所があるならそれも大切な時間だと思う。
けれど寄り掛かかる存在は自分でなければ許せない。ただそれだけの事だ。
忌まわしいものをシャットアウトするように、恵一は戻ってすぐにベッドの中へと入ってしまった。怖いくらいに無表情で、それでも抱き寄せた紳助に最後は擦り寄って眠りについた。
自分も恵一も、あともう少しだけ大人だったら、ただ身を寄せ合うだけではない別の何か、恵一をラクにしてやれる方法が見つかったんだろうか。
正直、手の施しようがない。立て続けに浮上しては落ちていく恵一の心はとてもシンプルなものなのに。
望んだ時に受ける事のできなかった愛を、今必死に紳助から浴びて満たそうとしている。けれど恵一が思うほど大人ではない自分には、まだ彼が十分だと感じられるほどの安心感を与えてやれない。
恵一の求めるスピードに紳助の器が追い付いていない。そして多分恵一はそんな事に気付きもしていない。
優しい言葉を囁き、身体を繋げるだけでは、恵一はきっと足りていない。それ以外に恵一にしてやれる事を増やしたい。
努力はしてきたつもりだけれど、やはりどこかで自惚れもあったと思う。傲慢な部分が芽を出していて、勝手に出来たつもりになっていたかもしれない。
「恵一」
眠る時くらい安らかでいてほしかったけれど、寝顔すら辛そうで、思い詰めたように眉を寄せていた。そこを解きほぐすように唇を寄せて食むと、恵一の強張った身体から少し力が抜けた。
途方に暮れたのは久々かもしれない。この事態に俄然燃えてくるけれど、自分が模索している間、恵一を放っておくのは危ない。かといって縛り付けて閉じ込めておくわけにもいかないから厄介だ。
「ん・・・」
陽が昇るまでにはまだ時間がある。もう少しだけ寝させてやりたかったけれど、残念ながらその願いは届かなかった。
「・・・。」
虚ろな目が紳助をジッと見据えた後、少し困ったような目に変わった。
「恵一。もう少し寝たら?」
鈍い反応ながら微かに首を横へ振ってくる。
「ちょっと・・・疲れたな・・・」
ちょっと、ではないだろう。
仕草でキスを強請られたので、誘われるままゆっくりキスを落とす。
「紳助」
「うん?」
「ちょっとだけ、して・・・」
疲れてどうしようもない時に、緩やかな快感が欲しい気持ちは同じ男だからわかる。今の恵一をそれ以外に慰める方法も思い付かなかったので、導かれるままにまだ柔らかいままの恵一の分身を手に包む。
「紳助・・・あったかい・・・」
気持ち良さそうに、うっとりと目を閉じたので少しホッとする。その仕草通り、彼の分身が芯をもつのにさほど時間は掛からず、されるがまま身を任せてきた。
こんな風に反応されると、やはり錯覚してしまう。恵一の望む分だけ安心を注げる完璧な自分を描いてしまう。
恵一、違うよ。俺はそこまで完璧じゃない。だって現に傷付いているおまえに、大した事は何一つできていない。
「・・・ッ・・・ふぅ・・・あ・・・」
「気持ち良い?」
「うん・・・ぁ・・・あ・・・いい・・・」
いつの間にか開かれた目が、縋るように紳助の視線を追い掛けてくる。目を合わせて、情事にしてはいつもより幾分多弁になって恵一を高める。自分でもわかる。不安の裏返しだ。下手をすると恵一を壊してしまうのではないかという不安。
「恵一。ここは? 良い?」
「あッ・・・あぁ・・・」
先端の丸みのある部分をしつこく擦ると、蜜が次から次へと溢れてくる。
「気持ち良い? おまえ、ここ好きだもんな。」
「・・・き・・・すき、そこ・・・あ・・・あッ・・・す、け・・・ッ」
腕の中で忙しなく身じろいで可愛く暴れ出したので、絶頂が近いのだとわかる。
「恵一。ほら、いいよ。」
「あ、イくッ・・・ん、すけッ」
「うん」
「・・・あ、あッ・・・ぁ、でる・・・あ、あぁ・・・」
恵一が腕を掴みながら爪を立ててきたので、鋭い痛みが走るが、自分の手で感じさせている結果だと思えば、むしろこの痛みは愛おしい。
「ッ・・・あぁぁ・・・」
息を呑んで身体を震わせ、恵一が極まる。温かい飛沫が紳助の手を幾度も濡らしていく。紳助がそれごと絶頂と共に萎えていく彼に擦り付けて扱くと、快感が過ぎたのか、恵一の瞳から涙が溢れた。
「しん、す、け・・・」
「うん?」
「もうちょっと、頑張れそう・・・」
消え入りそうな声で言われても信用できない。けれど頑張らなくて良いよ、という言葉は呑み込んだ。恵一も自分で無理をしているのはわかっているはず。それでも前に進もうと必死にもがく彼を邪魔していいはずがない。
「恵一」
「・・・うん?」
「今日は・・・授業終わったら、すぐ帰って来いよ。」
「・・・うん。」
授業なんか忘れていたという顔を恵一がしたので、彼の鼻を摘んで苦笑しながら言葉を続ける。
「夜、何が食いたい?」
「・・・カレー。カレーがいい。」
「カレー? わかった。カレーな。」
もっと当たりの優しそうなものを要求してくるかと思っていたのに、案外、味の濃いしっかりしたものを頼んできたので、紳助は微かに眉を上げる。それと同時に恵一の腹の虫が鳴って、恥ずかしそうに紳助の胸に額を押し付けてきて顔を隠す。
「恵一」
「・・・。」
「さすがに朝からカレーは食わねぇぞ。」
「ッ・・・。」
恵一の胃袋の現金さに紳助が小さく笑うと、盗み見た恵一の顔が赤く染まっていた。
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朝霧とおる