恵一が日本を離れてひと月ほど経った週末。郵便受に小包が入っていた。送り主は恵一。滞在中に何かを寄越してくるとは思っていなかったから、思わぬサプライズだった。
「香水?」
荷を解いて、手紙を手に取る。
仕事は順調らしい。双方忙しいと告げていたから、電話は途絶えていたけれど、体調も崩さず元気にやっていると知って、ホッとした。
最初に仕事をしたカメラマンと仲良くなったこと、急遽、日本で企画していたものとは別撮りでオフショット撮影が入ったことなどが記されている。
贈り物はその副産物らしい。カメラマンに餌付けされているようなのが少々気になったが、招かれたホームパーティでの様子から、カメラマンが既婚で子持ちだと知る。早とちりして嫉妬しかけた自分に笑うしかない。
異国の空気を吸いながら、楽しんで仕事をしているらしい。寂しく思う暇すらないことは、ある意味幸いと言えるだろう。
独り身の時は忙しいほうがいい。暇を持て余すと間違えが起きる。それが人間だ。
「シャワーの後にでもつけるか。」
洒落た小瓶に入った香水をかかげて、口元を緩める。
それぞれこだわりがあり過ぎて、あまり二人の間で贈り物のやりとりはしない。貴重な恵一からの贈り物に自然と笑顔がこぼれる。
仕事が落ち着くまで、あと数日。ピークを超えたら返信の手紙を出そうと決め、シャワールームへと向かった。
* * *
手紙には、気に入った香りを調合してもらったと書いてあった。恵一もお揃いのものを使っているらしい。
「俺の使ってるやつと、ほぼ同じだな。」
狙って送り付けてきたとは考えがたい。無意識に紳助がまとっている香りを調合したのだとしたら、愛しく思わずにはいられない。
「ホント、あいつは・・・」
香水をつけて寝ると安眠できると記した彼のもとへ、今すぐ飛んで行きたい気分だ。どれだけ舞い上がらせれば気が済むのだろう。
本人に平然と送ってきているあたり、恵一本人に全く自覚がないはずだ。意図しない愛の告白に、目がくらむほどの幸せを感じる。
帰ってきたら、甘やかせて啼かせて、骨の髄まで味わい尽くしたい。帰国後、恵一はしばらくオフに入る。足腰立たなくなっても何も問題がない。
不穏な計画を立てて、頬を緩める。連日寝不足が祟って疲労困憊だったが、もうひと踏ん張りして乗り切れそうだ。
恵一が与えてくれる活力は偉大だ。急浮上できてしまう自分の溺れっぷりに呆れるしかない。
恋人が元気なことが何よりも力になる。恵一の顔を思い浮かべて、もうひと噴き、耳の後ろ辺りに香りをまとった。
紳助の香りをまとって、遠い異国の地で安眠を貪る恋人を想像すると、ついつい抑えていた欲が顔を出す。
「あぁ、マズイな・・・」
こういう時、我慢はしない。再びシャワールームへ直行して頭上から熱い湯を浴びる。
収まってくれない熱を手で擦ると、久々の刺激に身体が歓喜していくのがわかる。
「恵一・・・ッ」
恵一と絡み合う時は我慢比べだが、一人の時はさっさと熱を解放するに限る。昂り過ぎても持て余すだけだからだ。
「・・・ッ・・・んッ・・・」
震えた息と共に、放った熱をシャワーの湯があっという間に流し去っていく。急速に萎んだ象徴に、肩の力を抜いて深呼吸をした。
自分では上手くコントロールしているつもりだが、恵一によって高められてしまう熱はとても厄介だ。シャワールームとしばし仲良くせざるを得ない時もある。
「帰ってきたら、覚悟しろよ、あいつ・・・」
苦笑しながら悪態をついて、ようやくシャワールームを出る。
こういう日はロクでもないことを考えて迷宮入りしないうちに寝るに限る。
髪をおざなりに乾かして、すぐにベッドへと飛び込んだ。
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朝霧とおる