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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

あなたの香り5

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あなたの香り5

仕事の山場がいつ頃までなのか聞いておけば良かった。スマートフォンに向かって溜息ばかりついていても仕方がないから、日記帳を取り出す。

「このままだと、紳助の顔だらけになる・・・」

まともに日記らしいものを書いていたのは最初だけで、今ではラクガキ帳と化している。

紳助と撮った写真を眺めては、彼の凛々しい顔を思い出して、気が付くと手が動いている。生身の温かさや匂いは当然ない。せめて声だけでも聞けたらいいのにと、窓の外を見ながら惚けていると、そんな考えばかりが浮かんでしまう。

気を取り直して、日記帳を閉じた。せっかくのオフだから、外の空気でも吸って散策してこよう。紳助への土産話も調達したいところだ。

ベッドから起き上がって、着替えようとしていた矢先、ドアのベルが鳴る。誰だろうと覗き穴から外を見ると、岡前だった。

「おはよう、ケイ。ちょっといい?」

「いいですよ。」

ドアを開けると、手に何かをたずさえて入ってくる。

「ダニエルが撮ってくれる、って言ってたケイのオフショット、早速今日から始めよう。」

「え!? 今日からですか?」

「今回の滞在中、ダニエルが時間の許す限り付き合ってくれることになったよ。」

「そうなんですか!?」

ダニエルもだが、岡前も話を進めるのが早い。二人の手際の良さに驚いてしまう。

「今、出かけるところだった?」

「はい。でも、どこに行こうかとか、特に決めてなくて・・・。」

「ダニエルが連れて行きたいところがあるんだって。」

「行きます。」

「俺は付き添わないよ。」

「そうなんですか?」

「仕事モードを完全になくしたいんだって。行っておいで。何かあったら、すぐに連絡して。」

「わかりました。」

モデルを本業にしてから、私服もこだわるようになった。派手なものは着ないけれど、質の良いものを選んでいる。

値は張っても、ちゃんと選べば肌触りも良く、保ちも良い。布地の選び方は大学で学んだことだ。違う道を歩んでいても、あの頃鍛えた目は無駄になっていない。

コットンの白いシャツに、濃いめのジーンズを合わせる。

「ちょっと、物足りないか。」

数本ベルトを手に取り、細身のものを二本、腰に緩くあてがった。

「良いんじゃないか、ケイ。センス良くなったよね。」

「そりゃあ、岡前さんの厳しいご指導がありましたから?」

岡前はスケジュールだけ管理しているわけではない。食べるもの、着るもの、全てに注文を付けてきた。最初は鬱陶しく感じたこともあったけれど、今ではそのテコ入れに感謝している。

生活の全てが仕事の質に影響する。それを今では嫌というほど実感している。センスは一日二日で身につくものではない。考え抜いて、実践を重ねることに勝るものはない。

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」

地図を渡され、タクシーに乗車するところで見送られる。新しいものを探求するワクワク感。ダニエルがくれた、またとない良い機会に胸を躍らせながら、指定された場所へと向かった。

 * * *

「ケイ、おはよう。よく眠れたかな?」

「おはようございます、ダニエル。気分は良いですよ。」

「それは良かった。早速行こうか。」

タクシーから下車するタイミングでシャッター音。不意打ちの顔がマヌケ面でないことを祈るばかりだ。

どこへ連れて行かれるのかと思ったら、大通りから一本入った小道にある、オリジナルのコロンを作ってくれる店だった。

洗練された白い調度品に囲まれた店内には、棚にズラリとコロンの原液が瓶に入れられ並んでいた。

瓶の密閉度が高いらしく、店内に香りが充満していることもなく、鼻を微かにくすぐる甘い香りがするだけだ。

「ケイ。君の気に入ったものをプレゼントするよ。」

「え、でも・・・。」

「大丈夫。経費で落ちるから。」

茶目っ気たっぷりに微笑まれて、本当かどうかわからなかったけれど、反論する理由もなくて、お言葉に甘えることにした。

「ケイはどんな香りが好き? 好きなものをベースにして、馴染む香りを足していこう。」

「そうだなぁ・・・ベースは柑橘系。でも角が立たないというか・・・マイルドな感じにしたいです。」

「じゃあ、それでいこう。」

香りの調合師がいくつかの瓶を棚から取り出して、目の前で混ぜ合わせていく。途中、小分けにしたものに、それぞれ別のものを混ぜて差し出してきては、理想の香りの調整をした。

香りってとても大事だと思う。慣れないホテル暮らしの原因の一つに、寛ぎ慣れている香りがしないことがある。無意識の内に日常生活を送るために足りないものを追い求めてしまう。

できあがった香りを差し出され、今度は手首に付けて馴染ませてみる。

「これがいいです。」

「気に入った?」

「はい。」

「これを二つ包んでくれ。」

「二つ?」

「君と、君の恋人にね。」

「いいんですか?」

「もちろん。」

「ありがとうございます。」

しばらく帰れないから、エアメールで紳助に送ろうと決めた。

手首に鼻を近づけて、香りを吸い込む。安心する香りだった。今晩からこれをつけて寝よう。ぐっすり眠れる気がした。

ダニエルは調合を待っている間にも絶え間なくカメラを手にしてシャッターを切っていた。肩の力を抜いたプライベートを演出するには、もってこいのスタートだった。ダニエルの計画は成功だろうと思う。実際、とてもリラックスできた。他に客がいなかったのも功を成していた。

次の場所へと向かうべく二人で席を立ち、通りを歩き始める。恵一の足取りはとても軽かった。












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昔、代官山に調香師がいるコロンのお店があったのですが(多分今から10年ほど前のことです)、店内の様子などはそこを参考に。
ニューヨークは行ったことがないので、わかりません(笑)
でも、フランスには似たようなお店があって、ルーヴル美術館の近くにあるアンジェリーナというカフェ(ガイドブックにも載ってるくらい有名なお店なので、すぐ見つかると思います)のすぐそばの一つか二つ路地入ったところに、あったような・・・。
でもその話も5年くらい前なので、記憶がかなり曖昧です。。。
シャンゼリゼ大通りにある方のラデュレ(これもカフェ)の近くだったかもしれないけど(汗)、
つまりパリはお洒落な街ですよね、っていう話です(笑)

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