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とおる亭

*BL小説* 全作品R18です。 閲覧は自己責任でお願いいたします。

この雨が通り過ぎるまでに8

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この雨が通り過ぎるまでに8

瀬戸をバスルームへ押し込んだところで、急に冷静さを取り戻してしまう。宇津井の軽いノリと酒の勢いだけで連れてきてしまったけど、瀬戸が戸惑っていたのは明らかだ。宇津井に打ち明けた内容を反芻してみるものの、相手が瀬戸だとバレたとは思えない。意図せず背中を押されて、坂口は布団に顔を埋めて猛省する。

「連れ込んじゃうのはダメだろ・・・。」

これが学生間の話なら、そんなもんだと思える。社会人でも同期の宇津井ならセーフだろう。しかし坂口と瀬戸は決して仲が良い同僚とは言えない。こちらが一方的に好意を寄せているだけで、瀬戸は親近感の欠片も抱いていないかもしれない。

「変だと思われないかな・・・。」

連れ込んだ以上、先輩面を貫き通して、何食わぬ顔で接するしかない。

とりあえず喉が水分を欲していたので、ペットボトルを冷蔵庫から取り出し、グラスに注ぎ入れた麦茶を口に流し込む。

「はぁ・・・。」

ここまでの緊張と混乱に陥ったことがあるかと考える。そして冷静に過去を振り返ることができないくらいにはパニックだった。落ち着かなくてグラス片手に無意味に部屋をウロウロ彷徨っていると、瀬戸がバスルームのドアを開ける音がした。

未開封の下着を置いておいたけど気付いたかなと、ドアが閉まったままの洗面所へ意識を飛ばす。ガサゴソと着替える気配がなくなったのでドアが開く覚悟をしていると、間もなく洗面所から瀬戸が姿を現した。

「あの・・・。」

「このまま、泊まってけ。服のサイズ、大丈夫?」

「・・・はい。すみません。」

「全然。ホント、気にしなくていいから。俺もさっさと入って、洗濯機回そうかな。浴室乾燥やれば、明日着ていけると思うし。」

好きな人の前で慌てると口数が多くなるんだと、今まで知らなかった自分を発見する。早口でまくし立てた坂口に、瀬戸はぽかんと見つめ返してくるだけだった。

「ありがとう、ございます・・・。」

引かれたかもしれないけど、一度取ってしまったリアクションは消すことができない。余計なことだけは言わないようにと、心して瀬戸に寝室を指す。

「ベッド、使って。もう遅いし、先寝てていいから。」

「いや、そんなわけには・・・。」

「あー・・・気遣うよな。ソファの方がいい?」

「ソファでいいです。」

ホッとしたように頷く瀬戸に、残念なような、救われたような複雑な気分。先輩のベッドを奪うわけにはいかないという後輩心はわかる。

部屋へ招き入れた時は戸惑った顔をしていた瀬戸だが、もうすっかりいつも通り無感情な顔だった。

「じゃあ・・・俺、入ってくる。ホント、気にしないで先寝てろ。疲れた顔してる。」

坂口の言葉に瀬戸が小さく頷く。一瞬照れたように瀬戸の瞳が揺らいで見えたのは、自分の願望が見せた幻かもしれない。

「先、寝ます。お疲れ様です。」

瀬戸らしい端的な言葉に内心苦い想いが走る。これでは退社時の挨拶と差異がなく、随分無機質で事務的な遣り取りに思えた。

「おやすみ。」

「・・・おやすみなさい。」

誰かにおやすみを言うのは遠く久しい。きっと瀬戸も同じだったのだろう。意外そうな顔で坂口を見て、小さな声で瀬戸が挨拶を返してくる。

坂口は洗面所のドアを笑顔で閉めて、瀬戸の顔が見えなくなったところでこっそり溜息をついた。









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