売店から企画部二課のフロアへ戻ったら、ちょうど向かいから宇津井がやってくるところだった。手の振り一つとっても動作が大きくて、宇津井だとすぐわかるところがいい。
「瀬戸、お疲れ。」
「お疲れ様です。」
「悪いな。作業どう?」
「差し迫ってるものはないので。」
「良かった。あれ、今日は傘持ってんだ?」
宇津井が面白いものを見たように破顔する。そういえば坂口と同じく、宇津井も雨の日の目撃者だ。
「もしかして、これから降る感じ?」
「はい。予報では降るって・・・。」
「俺、忘れた。降ってきちゃったら入れてもらっていい?」
「はい。」
背の高い宇津井が窮屈そうに自分と相傘をする光景が目に浮かぶ。
「じゃあ、行きますか。」
彼の言葉に頷いて本社ビルを出ると、すでにパラパラと空から小さな雨粒が降り始めていた。
* * *
駅近のドラッグストアでお客さんの妨げにならぬよう、宇津井と二人で陳列棚を見て意見を出し合う。実際の制作時間も疎かにはできないが、一人モニターの前で唸っているより、よほど建設的な時間の過ごし方だ。
「初校、すぐ上げてくれて、ありがとな。」
「いえ・・・。」
「清潔感あってスタイリッシュな感じで、上にも好評だった。坂口に入れ知恵された?」
「いえ、特には・・・。」
「あ、そう。残念だな。あいつアダルトグッズ、すげぇ詳しいのに。」
川辺も同じことを言っていた。しかし純粋に職業柄からくる詳しさというより、宇津井の言い方ではニュアンスが違って聞こえる。笑うべきか流すべきか迷っている間に、宇津井がさらに追い打ちをかけるように言葉を乗せてくる。
「川辺が入社してきたばっかりの頃、あいつ仕事を盾にして熱く語ってたもん。あれ、軽くセクハラ。」
「そうなんですか・・・。」
笑うのが正解だったようで、慌てて作り笑いするものの、頬が引き攣って上手くいかなかった。際どいという意味では宇津井も同じだ。内心ヒヤヒヤしながらも、どうにか話を繋げられないかと頭をフル回転させて続きを絞り出す。
「今回、川辺さんに資料借りたり、アドバイス貰ったんです。だからスムーズにいったのかも。」
「そっか。じゃあ、坂口のセクハラも無駄じゃなかったってことだな。」
「・・・。」
坂口と宇津井は同期だから許されるだろうけれど、瀬戸からしてみれば二人とも先輩だ。坂口を揶揄う言葉に頷くことはできず、かといって場を和ませてくれようとしている宇津井の事も無碍にはできない。反応を示せず無言でいると、宇津井が笑った。
「瀬戸、真面目だよね。ここ笑っていいところだから大丈夫。深刻に考えんな。」
大きな掌で瀬戸の背中をバンバン叩いて笑っていたが、買い物客の登場で宇津井が澄まし顔に早変わりする。わざとらしい神妙な顔と腕組みに、瀬戸はつい我慢ができず頬を緩めた。
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朝霧とおる